星簇くんの恋愛攻略教室〜天才占い師さまは、俺にだけズルくて甘い〜

 ひーちゃんこと星簇くんと出かけてから暫く経つ。あれ以来星簇くんは教室に度々顔を出すようになった。しかし、星簇くんは俺に対してどこか余所余所しかった。
 地下書庫に向かっても、不在なことが多く、本当に授業を受けに来てそのまま帰っているのだ。

 そして、何処となくか俺のこと避けてる……?

 今日は、星簇くんは教室にいない。もしかしたら地下書庫にいるのかもと思い、連絡をしてみる。所が既読無視で終わってしまったのだ。
 移動教室も終わり、クラスへ戻ろうと文月と廊下を歩く。

「星簇くん、どうしたんだろう」

「織ちゃんどうしたかなぁ?」

「文月ぃ〜〜」

 いつもダル絡みしてくる彼は今日は気が利く。何かを発したい時に相手してくれるからだ。

「最近さ〜、星簇くんの様子がおかしいんだよね」

「そう? まぁ、確かに最近学校に来るようになったよね。女子たちが嬉しそうにしてた」

「え?! マジで?」

「「一緒に帰ろ〜」って誘ってる奴もいたよ。知らなかった?」

 女子の声真似で吹き出してしまう。それでも、心のモヤモヤは晴れることはない。
 そういや、星簇くんはモテるんだった。

「それにしても、星簇くんが菊地と知り合いだったなんてなぁ」

 驚きだと文月は頷く。

「お前でも知らなかったのかよ」

 陽キャで人脈が広いから、情報網そうなのに。

「だってあの集団結構性格悪いぜ? あんまり関わりたくないから自然とシャットアウトしてんのかも」

「文月もそんなこと思うんだ。俺はてっきり、「誰でもどんとこい!」って感じだって思ってたから」

「あれ、俺そんなに八方美人みたいに思われてる? そんな訳ないない。俺だって嫌いな奴はいるし、悪口だって言う時もある」

「へぇ」

「でも、織のことは大好きだよ。これからも仲良くしてほしいって思ってるし」 

「はいはい。どーもな」

「あ、絶対思ってないでしょー! このこのー!」

 文月が軽く突いてくるので急いで逃げる。俺らの茶番はいつもこうだ。我ながらガキンチョっぽい。

「そう言えば七夕祭の出し物何にするか決めたか?」

「七夕祭……そういや、もうそんな時期か。早いなぁ」

 ここ、天神高校は毎年七夕の時期に文化祭が行われる。名して七夕祭。当日は大きな笹の木が立ち、沢山のお客さんが短冊に願いを書くのも恒例の一つだ。

「今年は委員長が、クラスの出し物でミュージカルやりたいって言ってたぞ。他のクラスとは少し違ったものがやりたいんだって」

「ミュージカル? へー、楽しそうだな」

「そうそう。次の時間にクラスで出し物決めようって話してたじゃん? それで提案してみるんだって。何でも、童話を元にするってさ。俺裏方やりたーい」

「文月何か役やればいいのに」

「いや、やっても良いんだけれどさ。まぁ、何の役があるかによるわ」

 そんなこんなで教室にたどり着く。別に確認する訳じゃないが、星簇くんの机には誰も座っていなかった。

⭐︎

 次の時間は学級活動だ。文月の言った通り、クラスのみんなで七夕祭での出し物決めを話し合った。

「えっと、じゃあ七夕祭で行うクラスの出し物はミュージカルに決定しました」

 クラスの委員長・松原さんが教室の黒板に印を付ける。様々な出し物の案が出る中、やはりミュージカルがみんなの目を惹かれたようで、多数決で決定となった。

「じゃあ、次からどんな感じのをやりたいか、案を考えて下さい」

「あ、俺、白雪姫やりてー」

「白雪姫? はーい」松原さんは、書記担当の飯山にメモを取る様指示する。

 クラスでは、それぞれグループへと固まり話し合いも兼ねている。

「織はどーする?」

「何でも良いかな」

「珍しいじゃん、こういう楽しいこと好きな癖に」
 
 文月が俺の机に腕を伸ばす。

 別に何でも良いって訳じゃないけれど、今はそんな気分。俺は、未だ不在の机を見て気持ちが焦っていた。

「そう言えば星簇くん、今日はお休みか」

「はっ?!」

「いやだって、織がそんなに星簇くんの席を見るんだから心配してるのかなって」

「ま、まぁな」

「前に何かあったの? 一緒に出かけたって言ってたじゃん。それとも、「初恋相手ひーちゃんが実はイケメン占い師の星簇くんでした」っていう事実に未だ驚いてるってこと?」

「馬鹿、お前はいちいち声がデカいんだよ」

 無理矢理彼の口を塞いで辺りを見渡す。しかし、お喋りだったり議題について考えたりで、みんなそれどころではなかった。

 星簇くんが、ひーちゃん。
 ひーちゃんが、星簇くん。
 
 別に気にしてないと星簇くん本人には言ったが、後々になって信じられなさがのしかかる。
 それに、

『僕ね、君と出会った時から君のことが……』

「星簇くん、何を言おうとしたんだ……?」

「はーい! 私も白雪姫、それかシンデレラやりたい!」

 女子の大きな主張に目が覚める。

「やっぱり、童話系が良さそうだね」委員長はうんうんと頷きながら聞く耳を立てる。
 主張した女子は更に続ける。

「それでもし王子様役をやるなら、星簇くんが良いと思いまーす!」

 ドキッ

「え、まじ?」

 俺の本音は文月含めたクラスメイトに聞こえることはなかった。今、星簇くんって言ったよな?

 星簇くんが、王子様……?

 白馬に乗った彼の爽やかな姿が思い浮かんだ。地毛である白銀髪に負けない王冠に、全身真っ白の服装。
 モノクル付けててあのご尊顔だ。レンズを外したら、美形さが余計に引き立てられる。

 すると、意外なことに男子からも好評だった。

「分かるー。異国の王子って感じがするよな。なんて言うか、ミステリアス? あんまり学校に来ないけれど、話すと結構面白いんだよ」

「でしょでしょー? もしその方向でやるなら、星簇くんに相談してみるよ!」

「じゃあ、反対に姫役はどうする?」

「そんなの天川さん一択でしょ! 美男美女のデュエットとか間違いなし!」

 ドキドキっ

 俺の鼓動は再加速する。教室は二人の話題で話が持ちきりだ。男子は天川さんのプリンセス姿に密かにガッツポーズをしている奴もいた。

「天川さん、どう?」他の女子が天川さんに尋ねる。

「え、私……?」

 彼女は咄嗟のことで惚けた顔をしている。その顔すら可愛いんだろうけれど、今はどうしてかそう思えなかった。

 いいなぁ、天川さん。
 あれ、どうして天川さんにヤキモチ妬いてるんだ。

「馬鹿馬鹿、何考えているんだ」

「織どうした? そんなに難しい顔して。もしかして、天川さんのプリンセス姿を想像してドキドキした?」

「そ、そうだよ! うるさいな」

 文月を上手くかわせたことに内心ホッとする。しかし、視界の隅で天川さんが発した言葉に俺は驚愕してしまった。

「姫路くんはどう? だって、みんなからお姫様って呼ばれてるじゃん」

 クラスの視線が俺に一斉に刺さる。

「お、俺ぇ?!」

 俺は一生懸命に首を振る。その瞬間に顔が真っ赤になり、湯気が出るほど熱い。

「ないないない! そんなの絶対にないから!」

「確かに姫路くんでも良いかも」

「委員長?!」

 委員長が納得の意を示す。それに続いてクラスメイトも盛り上げてきた。

「私も姫路くんの女装姿見たいかも」

「よっ! 恋に恋するお姫様ー!」

「命短し恋せよ姫」

「確かに姫路はよく見ると可愛い顔してるよな」

 お前ら変なこと言ってんじゃねーよ!

 俺は盛大な突っ込みをかましたかったが、グッと堪える。話を広げた張本人の天川さんは掴めない微笑みで僕を見つめていた。