星簇くんの恋愛攻略教室〜天才占い師さまは、俺にだけズルくて甘い〜

 星簇くんは珍しくつまらなそうにそっぽ向いた。
 両腕を組んで偉そうにする態度はまさに不機嫌だと表している。

 つんと拗ねる星簇くんが新鮮で思わず笑ってしまう。彼は自分が今どんな顔をしているか気付き、しまったと身を固まらせた。

 それも含めて可笑しくて声をあげて笑った。

「あはは。星簇くんって結構素直なんだなー。あんなに済ました顔をして俺のこと揶揄ってたのに」

 いや、もしかしたら最初から素直だったのかもしれない。俺がこいつに振り回されて気付かなかっただけで、星簇くんは悪戯好きで素直な奴なのかも。

 だけど、今のは俺が一枚上手だな。

「……そんなの。姫路くんだけだよ」

「え?」

 どう言うことだ?

「僕がこんなに素直になってるのに君はちっとも気付かない。だから、鈍感って言われるんだよ」

 星簇くんは俺のおでこを指でぐりぐりと押した。何かの催眠術かと警戒したが、ただ腹いせでやったみたいだ。

「い、今俺のこと馬鹿にしたのか?!」

「さぁ? よく考えてみるといいよ。さ、次行こうか」

「あ、話はまだ終わってねーぞ!」

 そそくさと前を歩く彼を必死になって追いかけた。

 くそぅ、学力一位の奴は本当に何を考えてるか分かんねー!

⭐︎

 占いの館の後は、昼食を食べたり服屋や本屋に立ち寄った。疲れたら、また近くのベンチで座って二人で話した。

 これ、デートっていうよりはお出かけみたいな感じだな。天川さんとのデートプランを考えていた筈なのにいつの間にか満喫していた。

 もしも、俺が天川さんのお付き合いする関係になったらどうなるんだろう。付き合った後の想像が上手くできない。
 俺はただ、天川さんが好きってだけで、それ以上の関係を望んでいないのかもしれない。

 ただ、好き=交際という概念が纏わりついて、いつの間にか「天川さんと付き合いたい」になっていたのかも。
 でも星簇くんと出かけてみて分かった。天川さんと一緒に居たらきっと楽しいんだろうなぁ。

 天川さんと付き合ったら、星簇くんみたいに仲良くなれるかな。

 って、俺は何でこんな時にまで星簇くんのこと考えてるんだ。

 でも、星簇くんにもし彼女ができたら……?
 恋人が大切になるから、俺とは仲良くしてくれなくなるのかな。
 
「何でこんなにモヤってするんだろう」

 このまま考えていたら可笑しくなりそうだ。
まぁどちらにせよ、付き合うには互いが安心でいられるような関係がいいな。

「あ、そろそろオーダーメイドが終わっている頃だ。受け取ってくるだけだから、ここで待ってて」

「おう、分かった」

 星簇くんは立ち上がり、先程の雑貨屋へと足を運んだ。それにしてもオーダーメイドか。星簇くん、買うのに色々悩んでたからなぁ。

 もしかして、誰かにプレゼントか?
 彼女?!

 いや、自分へのプレゼントの可能性も捨てきれない。最近は自分へのバレンタインチョコを買うやつだっているんだから。

 ってもまだバレンタインは先だわ。

 一人で突っ込んで笑っていると、視界の隅で見慣れた人影らを目撃する。彼らは俺に気付き気さくに手を振った。

「姫路〜〜」

「あれ、菊地?! マジかここで出会えるなんてびっくりだ。お前らも買い物か?」

 クラスメイトの菊地がおちゃらけた様子で頷く。

「そーそー。田中が買いたい物があるって言って付き添った後、一緒に占いしてきた」

「え? 占い? それってあそこの?」

「でも、割とインチキっぽくってさぁ。「これ詐欺ですよね?」って問い詰めたら黙っちゃってさぁ!」

 菊地の周りに居た奴らも釣られて馬鹿笑いする。彼らはお調子者の軍団で、先生のよく手を焼いてるのだ。菊地とは席が隣になった事もあり、こうしてよく喋る。

 てか、あの占いの館ってインチキだったのか。危うく騙される所だったわ。

「所で姫路はここで何してんのー?」

「あ、俺はな……」

 俺が言う前に、星簇くんの声が重なる。雑貨屋を出た彼が小走りで戻ってくる。

「お待たせ。少し遅くなっちゃった」

「全然待ってないぞ。そうそう、今こいつらと偶然にも出会ってさ!」

「こいつら……?」

 星簇くんは菊地たちに目を配る。菊地は星簇くんと目が合った後、何故か鼻で笑って「あれぇ〜?」と伸びた口調になる。

「お前、彦史郎じゃん〜。何で姫路と一緒にいんの?」

「菊地くん……」星簇くんの顔が強張る。

 あれ?

「二人とも仲良かったのか?」

 不思議に思い尋ねると、菊地が「俺ら、小学校のとき一緒だったんだよ」と答える。

「へぇ、学校同じだったのか。ちなみにどこなの?
名前聞いても知らないかもだけれど」

「確か、私立創星(そうせい)学園だったな。小中高一貫なんだよ」

「そ、創星学園?! そこってお嬢様学校って呼ばれてるあの?!」

「何だよ、姫路も知ってたのか」

「知ってるも何も俺の住んでる所近いし、小学校は創星学園から真反対にある公立だったけれど。当時から有名じゃん」

 そう、俺の初恋相手のひーちゃんも創星学園出身だ。途中で転校しちゃったけれど。

 あんな美少女そうそう居ないからもしかしたら、菊地あたりが知ってるんじゃね?
 てか、星簇くんも知ってるんじゃ……。

「なぁ! お前らがそこに通っていた時さ、白髪の美少女みたいな子ってクラスにいた?」

 ほんの好奇心だ。まぁ、数年も前だから覚えてなかったら仕方がない。
 ひーちゃんはきっとどこかで幸せに暮らしてるんだろうなぁ。

 俺の妄想が広がる中、菊地の言葉で一気に目が覚める。

「白髪の美少女? それ、彦史郎のことじゃね? だってお前、公立のクソガキに「ひーちゃん」って呼ばれてたじゃん」

 星簇くんはだんまりである。俺は静かに驚愕して、二人を交互に見た。

 今、星簇くん、ひーちゃんって呼ばれてなかったか?
 まさかそんな筈。そんな筈は……。

『はとくん』

 あだ名で呼ばれた時の記憶が蘇る。

「星簇くん、もしかしてお前……」

 そう告げる間も無くして、菊地が割り込んできた。

「昔の彦史郎、愚図でオドオドしててさ、見ていてイラつくし、すぐに泣くし。オマケに女みたいな顔してて気持ち悪いし」

 あれ、菊地ってこんなに性格悪いやつだったか?

 頭が混乱してくる。

「……」

 星簇くんの顔がよく見えない。

「そしたらさ、変な奴が現れて「弱い者いじめはやめろ」って言ってきたんだよ。バッカじゃねーの? アホらしってなって笑った」

 それ、言ったことがある。
 俺とひーちゃんが出会って間もない頃の時だ。俺はペラペラと喋るコイツの話を黙って聞いていた。

「そいつ、俺たちよりもめっちゃチビでさー! 正義の味方気取りって奴? クソガキにも程があるよなぁ。それで喧嘩になったんだけれど、アイツ強くてさ力化け物かよ」

 その話を聞いた今、思い出したことがある。

 一度だけ、ひーちゃんがいじめられてる所を目撃して無我夢中で駆けつけた事があった。いつもは陰湿な事をして、誰かが来ると去るような卑怯な奴らばっかりだった。
 だから、この時は懲らしめる絶好のチャンスだとも思った。

 やっぱり、礼儀作法がしっかりしているせいか、身動きは俺の方が早く一人の男子と取っ組み合いになった末、勝った。
 「神社の息子舐めんなよ!」と訳分からない捨て台詞を吐いた記憶があるが、あの後こっ酷く親に叱られた。

 こいつが、あの取っ組み合いになったクソガキか。

「ま、所詮アイツは公立出身だし、低脳ってことだろ? 本当、聞いて笑えるよなぁ、ひめ」

 俺の名前を呼ぶ前に、俺の右足が彼の股間目掛けてクリーンヒットした。

 キーンという音は鳴らなかったが、コイツの頭は今頃鐘が鳴り響いてる筈だ。菊地は今何が起きたか理解できてないようだ。
 打たれた場所を押さえて悶絶していた。

「ひめ、じ……。お前何やって……」

「どーも、チビで低脳で悪かったな!」

「はぁ……?」

「理解できてないのか? 頭はいい癖に勘は鈍いのかよ。そもそも小学校違かったから、菊地のことよく知らなかったけれど。今思い出した。お前、この
歳になって何にも変わってねーのな。幻滅だよ」

 自分でも驚くくらいの地を這うような声が漏れ出た。
 菊地は一瞬何かを考えたが、すぐにハッとして青ざめる。他の奴らは立ち上がろうとする菊地の肩を抱く。

「お前! っう、いてぇ……!」

「はぁ? ひーちゃんの痛みはこんなものじゃねーよ。本当はもう何発か打ち込んでやりたい所だけれど、周りが見てるからやめとく!」

 今度は、俺は星簇くんの腕を引っ張った。

「ひ、姫路くん……?」星簇くんが弱々しい声で呟く。

「あっち行こ。俺あいつと一緒に居たくない」

 俺よりも背丈の高い彼を無理にでも引っ張る。

 とその前に、哀れに群がるコイツらに最後の捨て台詞をお見舞いした。

「星簇くんに、ひーちゃんを傷付けたらマジで許さねえからな! 次は教育委員会に訴えてやる。神社の息子舐めんなよー!」