星簇くんの恋愛攻略教室〜天才占い師さまは、俺にだけズルくて甘い〜

「お前、何でそのあだ名知ってて……」彼から距離を取り、囁かれた耳を気にする。対して星簇くんは惚けている。

「何のことだい?」

「いや、何でもない」

 内心俺の心の中はざわつき始めていた。
 何故なら、「はとくん」とは俺の初恋相手「ひーちゃん」から呼ばれていたあだ名だ。

 自分が「はとくん」と呼ばれていたことは星簇くんには教えてない。だからと言って、このタイミングでそう呼ばれると変に意識してしまう。

 かと言って。星簇くんがわざと発した訳でもない。
 星簇くんはひーちゃんじゃないしなぁ。

「ねぇ、姫路くんも言ってよ」

「お、俺ぇ?!」

 星簇くんのあだ名かぁ。確か名前は、彦史郎って言うんだよな。
 無難に彦史郎? うーん。彦、は天川さんが呼んでたし……。

 ひこしろう、あれ……?
 こいつも「ひ」から始まるのか。

 ……ひーちゃん。

 いやいや何考えてるんだマジで。星簇くんはひーちゃんじゃない!!

 本当にそうか?
 俺は星簇くんを凝視する。
 よく考えたら、星簇くんの容姿は間接的にひーちゃんに似ているのだ。白銀の髪と整った顔立ち。

 ひーちゃんは髪が長かったが、星簇くんは短髪だ。

 やっぱり、俺の見間違いか。

「ねぇ、何そんなに口を窄めてるの?」

「は?! ちょ、ちょっと考え事してたんだよ」

 星簇くんに俺の考えがバレたらまずい。ちょっと待っててくれと制して、一所懸命に考える。しかし、星簇くんが早くと急かすのだ。

「早く〜。はとくん」

「ちょっと待ってくれ」

「あ、また口をムッとした。チューしたいの?」

「はぁ?! ち、違う!」

 いきなり何を言い出すんだ。

「じゃあ、彦史郎!」

「……へ?」

 今度は星簇くんが拍子抜けた顔をした。
 お前が早くしろって言ったじゃないか。

「俺、上手くあだ名作れないから普通に呼び捨てでいい?」

「い、良いけれど……」

 次第に星簇くんの顔が徐々に赤くなる。まさかの反応に俺も釣られて下を向いた。

「何恥ずかしがってるんだよ。俺まで恥ずかしいじゃん」

「やっぱりダメ、星簇くんって呼んで」

「どっちだよ」

 はぁ、イケメンの考えることって分かんねー。

 肩を落とすも、気を取り直して近くの雑貨屋に寄る。神社で売る御守りも細かい装飾があるから、雑貨は好きである。
 妹に時々、ビーズ編みを手伝わされるんだよなぁ。

「星簇くんってさ、パワーストーンとか好きか?」

「うん。好きだよ、どうして急に?」

「俺の家が神社だって前に言っただろ? 神社でも、水晶とかアメジストとか小さいけれど売ってるんだ」

 石ころサイズだけれどな。それでも買いに来る人はいるんだから、それだけでもパワーが籠ってるんじゃないか?

「僕、買いたいのができたからちょっと買ってくるね」

 そう言って星簇くんは黄緑色のパワーストーンを持ち、レジに向かった。数分で終わるかと思ったが、思ったよりも会計が終わるのに時間がかかったようだ。

「ごめん、ちょっとオーダーメイドしてもらったんだ」

「オーダーメイドかぁ……。この雑貨屋さんってそんなこともできるんだな」

「三時間くらい掛かるみたいだから、それまで少し回ろうよ」

「おう、良いぞ! あ、そうそう。彦史郎!! 俺あそこ、あそこ行きたい!」

 雑貨屋から斜めにある小さな店を指差す。星簇くんは立て掛けられてた看板を見て眉を顰めた。

「え、占い……?」

「俺、デートで一緒に占いしてもらいたいって思ってたんだ」

 ほら、良く恋愛漫画とか小説でカップルがデート中に占い師に占ってもらうシーン。俺、結構憧れていたんだよなぁ。

「もしかして僕以外に占わせようとしてる?」

「いやまぁ、そうだけれど……」

「はとくんは浮気者だね。僕以外に占わせようとしてるんだから」

「浮気?! いやしてないって、そもそも浮気ってそう言う意味で使うものじゃないだろ」

「それでも移り気味じゃないか」

「まぁまぁ、そんな事言わずにさ。俺のデートプラン一緒に考えてくれるんだろー?」

「……そうは言ったけれどさぁ。まぁ、良いよ。その代わりインチキめいてたらすぐに出るからね」

「おう! 任せろ!」

⭐︎

 中に入ると、異様な雰囲気が漂う。アンティークな小物が飾ってあり、いかにもという空間だ。

 学校の地下書庫と似ているな。いやあれは、星簇くんの所有物が置いてあるだけで……。地下書庫そのものも不気味だかな。
 古ぼけた内装も隅っこに張られた蜘蛛の巣も雰囲気作りのためか。

「よく来たねぇ。こちらにおいで」

 しゃがれた声が奥から聞こえる。黒いローブを被った人物が座っている。

 魔女みたいだな。

 この言葉を本人の前で言うのは失礼だと思い、ぐっと堪える。隣にいる星簇くんは未だ黙り込んだままだ。

 まさか、占い師同士張り合ってるのか?

 俺たちは向かい合って座る。テーブルの目の前には大きな水晶玉が置かれていた。

「今日は一体何を占って欲しいんだい?」

「こ、恋占いして欲しくてですね……。俺、好きな人が居るんです」

「うんうん。分かるよ、もしかして、その子は他の人から人気なんだろう?」

「な、何故それを!」

 俺はまさかの言葉に思わず椅子から立ち上がる。女性は笑みを浮かべて更に続ける。

「俺、実はいつか告白をしようと思ってまして。成功すると思いますか?」

「あぁ、このまま関係を続けて行けばいずれそうなる未来も視える」

 女性は水晶玉をじっと見つめる。自信満々気に言うものだから俺も信じてしまいそうだ。

「君、これまでの恋愛で結構苦労してきたんだろう?」

「わ、分かりますか!! 実はそんなんですよぉ。そんな事まで分かるんですね! 占い師ってすげーや」

「あぁ、二人の相性も文句なしに良い。だけど、二人の関係をより深めたいと思わないかい?」

「……と言いますと?」

 女性は待ってましたと言わんばかりに、何やら荷物を取り出す。コトッと静かに置かれたそれを見て首を傾げた。

「これは、壺?」

 目の前の壺は奇妙なトグロを巻いたデザインを放つ。俺は更に女性の説明を待った。

「これは、恋愛運向上を促進する不思議な壺でねぇ。この壺を買った者たちはみんな、好きな人と両思いになれたんだよ」

「りょ、両思い?! マジですか!!」

 買う買う!
 これいくらなんだろ!

 しかし、金額を提示されて思わず「高っ」とぼやいてしまった。

「い、一万……?!」両腕がプルプルと震える。

「どうだい? 今なら少しお安くするよ」

「え、えぇ……。確かに今日は多めに持って来たけれど。うーん」

「姫路くん。もう行こう」

 今まで俺たちの会話を聞いていた星簇くんが遂に口を開いた。そして、今までにないくらいの強い力で腕を引っ張られる。

「ちょ、ほ、星簇くん?!」

 俺思わずあだ名脱却しちゃったよ。しかし、星簇くんは俺の言葉など無視して、占い師の女性に札束をドンっと雑に置いた。

「こんなの話にもならない。もう少しマシな占い師を演じたらどうなんだい」

 そして、星簇くんは俺をズルズルと引っ張りながら占いの館を出た。外に出てからも俺はずっと、彼に引っ張られたまま歩く。

「ちょっと星簇くん! 待てって!」

 引っ張り返すもビクともしない。抵抗も虚しく、彼の後を着いていく。やがて近くのベンチに座り込み、やっと腕が解放された。
 
 うへ、腕に僅か掴まれた跡が残ってる。どれだけ強く引っ張んたんだ。

 それよりも華奢な星簇くんから、あんなゴリラみたいな力が出るとは思わず唖然とするばかりだ。
 それはそうと、星簇くんは座ったっきり再び何も喋らなくなった。

「星簇くん? 星簇くーん?」

 俺は「おーい」と目元に目かけて手を振る。彼の瞳が瞬いた。

「……あだ名」

 あ、反応した。

「いやさ、俺びっくりしちゃって思わず星簇くんって呼んじゃった」

「……そう」

「落ち込んでるのか?」
 
「逆に聞くけれど、君にはどう見える?」

 え、俺?
 その時、頭の中にある事が過ぎり巫山戯半分で答えてみる。

「もしかして拗ねてんのか? 俺が別の占い師と盛り上がってたから嫉妬してた!」

 なーんちゃって。あはは。
 星簇くんがそんな事思うわけないない。

「そうだけど?」

「あはは……は?」