そして、星簇くんとデート(?)当日。
寝坊した俺は身支度を整えて、待ち合わせ時間までになんとか辿り着いた。
幸い、俺の弟の一人がオシャレ好きで俺の持っている服でコーディネートしてくれたから、可笑しな格好にはなってない筈だ。弟はセンスが良いからな。
待ち合わせ場所の噴水に向かうと、人集りができていることに気付く。俺は集団の正体をいち早く気付いた。
星簇くんだ。エメラルド色のカーディガンとスラックを履きこなし、所謂スマートな身なりだ。彼が元々華奢な体型だからか余計にだ。おまけに、帽子まで被っている。
側から見ると芸能人のようで、女子が群がるのも分からなくもない。
「うわ、俺あの中に行くっていうのか……」
正直言って行きたくない。寧ろ人集りが消えるのを待ってから向かうのが最善かもと考える程だ。だが、俺たちには待ち合わせ時間というものが存在する。
「仕方ない、遅刻するって嘘の連絡をして待とう」
俺は、ポシェットの中からスマホを取り出そうとした。
「姫路くん!」
「えっ」
不意に顔を上げると、星簇くんが今まさにこちらに手を振っている。彼の周りにいた女性軍団も俺の方を見つめる。
やめろやめろ、俺を巻き込むなー!
そう言いたいのも山々だが、星簇くんは冷や汗をかいていた。
余程面倒みたいだ。
だからと言って巻き込むのは可笑しいだろ。疲れ切った顔もイケメンなのが更にムカつく。
星簇くんが事情を話しているようで、俺の方に飛び火が来ることはなさそう。
「彼、僕が待っている子なんです」
「え〜〜? 彼氏持ちー?」
「わたし、略奪しちゃおっかなぁ」
「じゃあさ、連れの子も誘って一緒に行こうよ〜」
……何か、丸め込まれたら厄介そうな話を聞いたな。
だが、星簇くんは占い師の職を持っているお陰か、「ごめんね。今日は二人でいたいんだ」とはぐらかしていた。
「いや何だよ。二人でいたいって」
思わずドキッとしちゃったじゃないか。何を考えてるんだ。俺は、天川さん一筋だぞ。余計なことは考えない考えない。
やがて、集団をかわして星簇くんが目の前に颯爽と現れた。走ってきたのか髪型が僅かに崩れるがそれでも爽やかさは保たれたままだ。
「ごめんね。待ったよね? 変な人たちに絡まれちゃってさ」
「別に良いぞ。星簇くんはかっこいいからな」
「え? 僕、かっこいい……?」
心底そんなことないという顔をされて逆に驚く。
「あんなに女子に絡まれてたんだから。そうだろ」
「へぇ、そっか。ふふ、姫路くんからして僕ってかっこいいんだ」
「な、何そんなにニヤニヤしてるんだよ」
俺何か変なこと言ったか?
不思議だと見つめていると、星簇くんは頬を赤く染めていた。
「何でもないよ。ただ、嬉しかっただけ」
「んー? まぁ、いいか。星簇くん、今日はどこ行くんだ?」
「今日はね、映画を一緒に観ようかなって」
「映画……! 俺、映画観るの久しぶりかもしれねぇ」
「本当? ふふ、良かった。恋愛系の映画なんだけれど、もしかしたら何か参考になるかも知れないと思ってね。どうかな?」
「全然良いぞ! と言うよりありがとうな。そこまでやってくれるなんて」
天川さんとデートする時はリードできるようにしないとな。星簇くんみたいに予め計画を立てないと。
「いや、良いんだよ。僕がしたくてしてることだから。じゃあ、映画館に行こっか」
「おう!」
恋愛映画だなんてあまり観ないから楽しみだな。星簇くんはセンスもイケメンなのか。悔しいがかっこいい。
⭐︎
「は、話が違うぞ……」
映画館を出た俺は先程の胸を踊らせた顔とは違って、踊り疲れた顔をしている。隣では星簇くんが「面白かったね」と平然としていた。
俺はその言葉に無視したくなった。
だって、そう思うだろ?
「何なんだよ! 恋愛映画と思ったらバチバチのホラー映画じゃねーか!! 題名が「初恋キラー」って、可愛い子やイケメンが出てくるのかなって思ったらガチの殺人鬼なんかよ!」
「でも、ヒロインの子中々に綺麗だったよね」
「正体、連続殺人鬼だったけれどな! 可愛いけれどサイコパスだったし、なんなら怖いが勝ったわ」
まさか星簇くんがホラー映画得意だなんて思いもよらなかった。そうだこいつ、占い師だったわ。オカルトとか好きそうというイメージがあった。
「それにしても面白かったなぁ。姫路くんが驚いていたし、僕に抱き付いてきて」
「あ、あれは仕方ないだろ! 本当にびっくりしたんだから」
星簇くんは俺を揶揄うのが好きみたいだ。先程あったことを掘り返しては一人で笑っている。
「本当、可愛い」
「だから、俺に可愛いは似合わないから!」
本当にこいつは心臓に悪い。
恥ずかしさで居た堪れなくなり、星簇くんよりも前を歩く。
「ごめんってば、姫路くん」
「謝罪に申し訳なさが籠ってない」
「また映画を観に行こうね」
「ホラー以外でな!」
「ホラー以外だったら一緒に観てくれるんだ。じゃあ、許してくれるんだね」
「こ、今回だけだぞ」
本当、俺はイケメンに甘い。甘すぎる。
歩道を並列で歩くと、不意に星簇くんが俺の右側に移動する。
「ほら、車が来たら危ないから。姫路くんは端っこ歩いて」
「あ、ありがとう」
天川さんをリードできるように、俺がやらないといけないのに。俺がエスコートされてどうするんだよ!
あまりにもさり気ないから疑わずに頷いちゃったじゃん。
思い立って星簇くんに「俺が歩道側を歩く」と言おうとするも、星簇くんはどこか嬉しそうに前を向いていた。
星簇くん、鼻が高いな。横顔がめっちゃ綺麗。そして、思ったらが本当に身長高いな。
「見過ぎだよ」
俺の視線に気付いた星簇くんが微笑む。
「わ、悪い!」俺は勢いよく謝り、そっぽ向いた。
「そう言えばさ、映画の中で主人公とヒロインがあだ名で呼び合うシーンがあったよね」
「そ、そうだったか? そんな事もあったような……。それで、あだ名がどうしたんだ?」
「僕たちも呼び合わない?」
「は?」
いやいや何でそうなる。首を横に振ろうとするも、「お願い」と祈願されてしまった。
「星簇くんがただただやりたいだけじゃねーのか……?」
「バレた? 僕、こう言った事したことなくて……ダメ?」
「ダメじゃないけれど」
そのつぶらな瞳で俺を見るのやめろ。絶対分かっててやってるだろこいつ。イケメンの粘り強い眼差しに見事に負け、渋々頷いた。
星簇くんはそこでも嬉しそうに「ありがとう」と言った。
「何で呼ぼうかな。姫路織くんだからなぁ。うーん、じゃあ姫ちゃん?」
「却下。文月と一緒じゃん、別のにしろ」
あだ名にしやすいのは俺も分かっているけれどさ。
「じゃあ、これは?」
星簇くんは俺と目線を合わせる。いきなり何をするのかと思えば耳元で囁かれた。
「はとくん」
寝坊した俺は身支度を整えて、待ち合わせ時間までになんとか辿り着いた。
幸い、俺の弟の一人がオシャレ好きで俺の持っている服でコーディネートしてくれたから、可笑しな格好にはなってない筈だ。弟はセンスが良いからな。
待ち合わせ場所の噴水に向かうと、人集りができていることに気付く。俺は集団の正体をいち早く気付いた。
星簇くんだ。エメラルド色のカーディガンとスラックを履きこなし、所謂スマートな身なりだ。彼が元々華奢な体型だからか余計にだ。おまけに、帽子まで被っている。
側から見ると芸能人のようで、女子が群がるのも分からなくもない。
「うわ、俺あの中に行くっていうのか……」
正直言って行きたくない。寧ろ人集りが消えるのを待ってから向かうのが最善かもと考える程だ。だが、俺たちには待ち合わせ時間というものが存在する。
「仕方ない、遅刻するって嘘の連絡をして待とう」
俺は、ポシェットの中からスマホを取り出そうとした。
「姫路くん!」
「えっ」
不意に顔を上げると、星簇くんが今まさにこちらに手を振っている。彼の周りにいた女性軍団も俺の方を見つめる。
やめろやめろ、俺を巻き込むなー!
そう言いたいのも山々だが、星簇くんは冷や汗をかいていた。
余程面倒みたいだ。
だからと言って巻き込むのは可笑しいだろ。疲れ切った顔もイケメンなのが更にムカつく。
星簇くんが事情を話しているようで、俺の方に飛び火が来ることはなさそう。
「彼、僕が待っている子なんです」
「え〜〜? 彼氏持ちー?」
「わたし、略奪しちゃおっかなぁ」
「じゃあさ、連れの子も誘って一緒に行こうよ〜」
……何か、丸め込まれたら厄介そうな話を聞いたな。
だが、星簇くんは占い師の職を持っているお陰か、「ごめんね。今日は二人でいたいんだ」とはぐらかしていた。
「いや何だよ。二人でいたいって」
思わずドキッとしちゃったじゃないか。何を考えてるんだ。俺は、天川さん一筋だぞ。余計なことは考えない考えない。
やがて、集団をかわして星簇くんが目の前に颯爽と現れた。走ってきたのか髪型が僅かに崩れるがそれでも爽やかさは保たれたままだ。
「ごめんね。待ったよね? 変な人たちに絡まれちゃってさ」
「別に良いぞ。星簇くんはかっこいいからな」
「え? 僕、かっこいい……?」
心底そんなことないという顔をされて逆に驚く。
「あんなに女子に絡まれてたんだから。そうだろ」
「へぇ、そっか。ふふ、姫路くんからして僕ってかっこいいんだ」
「な、何そんなにニヤニヤしてるんだよ」
俺何か変なこと言ったか?
不思議だと見つめていると、星簇くんは頬を赤く染めていた。
「何でもないよ。ただ、嬉しかっただけ」
「んー? まぁ、いいか。星簇くん、今日はどこ行くんだ?」
「今日はね、映画を一緒に観ようかなって」
「映画……! 俺、映画観るの久しぶりかもしれねぇ」
「本当? ふふ、良かった。恋愛系の映画なんだけれど、もしかしたら何か参考になるかも知れないと思ってね。どうかな?」
「全然良いぞ! と言うよりありがとうな。そこまでやってくれるなんて」
天川さんとデートする時はリードできるようにしないとな。星簇くんみたいに予め計画を立てないと。
「いや、良いんだよ。僕がしたくてしてることだから。じゃあ、映画館に行こっか」
「おう!」
恋愛映画だなんてあまり観ないから楽しみだな。星簇くんはセンスもイケメンなのか。悔しいがかっこいい。
⭐︎
「は、話が違うぞ……」
映画館を出た俺は先程の胸を踊らせた顔とは違って、踊り疲れた顔をしている。隣では星簇くんが「面白かったね」と平然としていた。
俺はその言葉に無視したくなった。
だって、そう思うだろ?
「何なんだよ! 恋愛映画と思ったらバチバチのホラー映画じゃねーか!! 題名が「初恋キラー」って、可愛い子やイケメンが出てくるのかなって思ったらガチの殺人鬼なんかよ!」
「でも、ヒロインの子中々に綺麗だったよね」
「正体、連続殺人鬼だったけれどな! 可愛いけれどサイコパスだったし、なんなら怖いが勝ったわ」
まさか星簇くんがホラー映画得意だなんて思いもよらなかった。そうだこいつ、占い師だったわ。オカルトとか好きそうというイメージがあった。
「それにしても面白かったなぁ。姫路くんが驚いていたし、僕に抱き付いてきて」
「あ、あれは仕方ないだろ! 本当にびっくりしたんだから」
星簇くんは俺を揶揄うのが好きみたいだ。先程あったことを掘り返しては一人で笑っている。
「本当、可愛い」
「だから、俺に可愛いは似合わないから!」
本当にこいつは心臓に悪い。
恥ずかしさで居た堪れなくなり、星簇くんよりも前を歩く。
「ごめんってば、姫路くん」
「謝罪に申し訳なさが籠ってない」
「また映画を観に行こうね」
「ホラー以外でな!」
「ホラー以外だったら一緒に観てくれるんだ。じゃあ、許してくれるんだね」
「こ、今回だけだぞ」
本当、俺はイケメンに甘い。甘すぎる。
歩道を並列で歩くと、不意に星簇くんが俺の右側に移動する。
「ほら、車が来たら危ないから。姫路くんは端っこ歩いて」
「あ、ありがとう」
天川さんをリードできるように、俺がやらないといけないのに。俺がエスコートされてどうするんだよ!
あまりにもさり気ないから疑わずに頷いちゃったじゃん。
思い立って星簇くんに「俺が歩道側を歩く」と言おうとするも、星簇くんはどこか嬉しそうに前を向いていた。
星簇くん、鼻が高いな。横顔がめっちゃ綺麗。そして、思ったらが本当に身長高いな。
「見過ぎだよ」
俺の視線に気付いた星簇くんが微笑む。
「わ、悪い!」俺は勢いよく謝り、そっぽ向いた。
「そう言えばさ、映画の中で主人公とヒロインがあだ名で呼び合うシーンがあったよね」
「そ、そうだったか? そんな事もあったような……。それで、あだ名がどうしたんだ?」
「僕たちも呼び合わない?」
「は?」
いやいや何でそうなる。首を横に振ろうとするも、「お願い」と祈願されてしまった。
「星簇くんがただただやりたいだけじゃねーのか……?」
「バレた? 僕、こう言った事したことなくて……ダメ?」
「ダメじゃないけれど」
そのつぶらな瞳で俺を見るのやめろ。絶対分かっててやってるだろこいつ。イケメンの粘り強い眼差しに見事に負け、渋々頷いた。
星簇くんはそこでも嬉しそうに「ありがとう」と言った。
「何で呼ぼうかな。姫路織くんだからなぁ。うーん、じゃあ姫ちゃん?」
「却下。文月と一緒じゃん、別のにしろ」
あだ名にしやすいのは俺も分かっているけれどさ。
「じゃあ、これは?」
星簇くんは俺と目線を合わせる。いきなり何をするのかと思えば耳元で囁かれた。
「はとくん」
