「本当だよ。クラスも一緒だったんだ。ね?」
「彦」というあだ名が再び聞こえる。星簇くんはどこか気まずそうな顔をしているが、次第に諦めて潔く頷いた。
「まぁね」
「彦ってば、中学校の時と全然変わらずサボり魔だし」
「姫路くんに変なこと聞かせないでくれるかな」
「何でよ、事実なんだから仕方ないじゃない」
天川さんってこんな風に人のこと揶揄う茶目っけがあるのか。それを上手く交わす星簇くんは、手慣れている気がした。
もしかして、この二人頻繁に話す仲なのか……?
そ、そう言う関係なのか?!
一度思ってしまうと、想像が膨らむ。星簇くんと天川さんは側から見れば美男美女カップルだ。学年一モテる二人同士なら、手を出せる相手もいない。寧ろ、応援したくなるんじゃないか?
しかも、教室では二人が話している所は見たことがない。と言うことは、陰ではこっそり会っていて……。
火照り切った頬が徐々に青ざめていく。
ここから逃げ出したくもなった。
いや、今なら帰れるんじゃないか?
二人は未だ会話を続けているし、俺の存在なんか気にしないで欲しい。
……そっか。俺、最初から邪魔な奴だったんだな。
胸が込み上げてきて目尻が熱くなる。もう、逃げたい。いや、逃げよう。ここには居たくない。もう二度と行きたくない。
俺はスクールバッグを取って扉に続く階段を上ろうとした。
「ねぇ、姫路くん帰っちゃうの?」
何で気付いちゃうんだよー!!!
振り返ると二人がこちらを見ている。やめろやめろ、俺はイチャつきを見に来てるわけじゃないんだ。
「えっと、星簇くんとの用事は終わったから帰ろうかなって思って……」
「えー? そうだった? まだお取り込み最中って感じだったけれど……」
天川さんは痛い所を突く。隣にいる星簇くんの顔が見れない。
「本当なんだ」必死に納得させると「そうなの?」と惚け顔で返ってくる。
この時だけ、天川さんのこと可愛いと思えなくなった。話はそれだけかと告げて帰ろうとした。天川さんが再び引き止めた。
「ねぇ、姫路くん」
「な、何……?」
これ以上、俺を惨めにさせないで欲しい。
「まだ、私のこと好き?」
……へ。
「え?!」
「もし良かったらさ、私とデートをしない?」
「へぇ?!?!」
何なんだこの展開は!!
あまりの急展開に頭が追い付かなくなる。しかし、天川さんは再撃してきた。
「私ね、実を言うと姫路くんのことをもっと知りたいって思ったの。だから、これを機会にもっと仲良くなりたい」
「どうかな?」こてんと首を傾げる天川さん。
俺は、気が付いたら首がもげるくらい上下に振っていた。天川さんは綻ばせて、
「じゃあ、近い内に色々決めよ!」
「う、うん……。お、俺なんかでいいの? でも、星簇くんとは付き合ってないの……?」
「彦とはただの同級生だし、そんな仲じゃないよ。もしかして勘違いしちゃった?」
「ち、違……」
違うとは言い切れなかった。二人の関係を勘違いして僻んでいた俺をぶん殴りたい。
「じゃあ、私友達待っているからもう帰るね。彦、明日はちゃんと教室に来るんだよー」
「分かってるってば」
「じゃあね、姫路くん。また明日」
「う、うん。また……」
小さく手を振ると、彼女も嬉しそうに振り返す。そして、スカートをくるり靡き、華麗に地下書庫を出て行った。
扉が完全に閉まった後、俺はくるりと星簇くんの方を見る。同時に彼は視線どころか顔を横に向いていた。
「星簇くんさ、俺に言うことない?」
「聞かれなかったから答えなかっただけだよ。と言うより、天川さんと知り合いってことを知っている人は殆どいないよ」
「そう言う問題じゃねーだろ! 何でそんな大事な情報を今の今まで教えてくれなかったんだよ!!」
今まで募っていた感情が一気に爆発した。星簇くんは隠し切ろうとしてたみたいだが、運命の悪戯によって阻止されたのだ。
いや、バレなきゃ犯罪じゃないとかそう言うことじゃねーし!
バレたら犯罪だし、どっちにしろ犯罪なのには変わりはない。
しかも、重要なのは"俺が天川さんを好き"だという事実の上で犯行が行われていたことだ。しかも何だよ、彦って。親密な関係としか思えない。
「でも、良かったじゃないか。あっちから誘ってくれたよ?」
「そう言うことじゃないから」
「もしかして、隠してた事怒ってるの?」
「だったら何だよ! どーせ、お前、あんな謙虚な態度取ってる癖して天川さんのこと好きなんだろ? だったら、抜け駆けでも略奪でも何でもして付き合えば??」
言い出したら止まらないのはこの事だ。星簇くんが弁明するのを俺は容赦なく遮った。
「お前も天川さんが好きなんだろ? 美男美女カップルでお似合いじゃん。どーせ俺は平々凡々であんな美少女とは釣り合わないさ」
「僕は姫路くん一筋だよ」
「おい!慰めはいいってぇ……」
今更な冗談も精神的苦痛が重なると煩わしい。言い過ぎだと思っているが、感情より言葉が先に出る。
見ての通り、哀れにも自暴自棄になっていた。
「ほら、今なら天川さんの所に追い付けるんじゃない? さっさと告白して公認カップルにでもなっちゃえよ!」
「……ねぇ、本気でそう思ってるの?」
流石の温厚な彼もこれには黙ってない様子だ。だが、今の俺には通用しない。
「だったらなんだよ!」
睨み付けて威勢を張ろうとした。だが、突如腕を引っ張られて俺は壁に押し付けられた。星簇くんは俺を冷徹な目で見下ろしていた。
やばい、言いすぎたか?
「ほ、星簇くん……?」
恐る恐る名前を呼ぶも無視される。完全にご立腹だ。しかも、今回はガチめの。
「本当、思い込みも甚だしいな」
必死に踠くも両腕を縫い付けられたように押さえられる。星簇くんの低い声に肩がビクッと震えた。
「ねぇ、知ってた? 授業をする時って実は生徒よりも先生の方が勉強になってるんだってよ」
……は?
「どう言う意味だ……?」
「まぁ、鈍感な姫路くんには分からないか」
こいつ、また鈍感って言った。
俺のどこかそんなに鈍いんだ。
その言葉を発してしまうと、何か嫌な予感がして飲み込むことにした。その数秒後、星簇くんは押さえ付けていた両腕を解放させた。
「さて。デートプランは一体どうしようか」
いきなり話を始められて素っ頓狂な声が出る。
「は?」
「デート行くんでしょ? その計画を立てなきゃ。でも、恋愛初心者の君じゃ一人では計画できないか」
「むっ、べ、別に俺だってできるし!」
俺だってやる時はやる男なんだ!
星簇くんの力なんか借りなくても……!
不意に目が合い、有無は言わせないという眼差しに小心者へと落ちる。
俺、こいつに敵わないのかもしれない。
「じゃあ、僕とデートして」
「え?!」
「デートの予行練習だって思って構わないからさ。デートプランは姫路くんが練るとして、参考にしていいから」
「ちゃんと予定空けてね?」約束をせがまれ、俺は自然と小指を授けていた。
「うん。指切りね、嘘付いたらぁどうしようか」
「えっ?!」
「冗談だよ。でも、約束だからね」
「お、おう……」
控えめに肯首すれば、端正な顔に華やかさが加わった。俺はその表情を黙って見つめることしかできなかった。
「彦」というあだ名が再び聞こえる。星簇くんはどこか気まずそうな顔をしているが、次第に諦めて潔く頷いた。
「まぁね」
「彦ってば、中学校の時と全然変わらずサボり魔だし」
「姫路くんに変なこと聞かせないでくれるかな」
「何でよ、事実なんだから仕方ないじゃない」
天川さんってこんな風に人のこと揶揄う茶目っけがあるのか。それを上手く交わす星簇くんは、手慣れている気がした。
もしかして、この二人頻繁に話す仲なのか……?
そ、そう言う関係なのか?!
一度思ってしまうと、想像が膨らむ。星簇くんと天川さんは側から見れば美男美女カップルだ。学年一モテる二人同士なら、手を出せる相手もいない。寧ろ、応援したくなるんじゃないか?
しかも、教室では二人が話している所は見たことがない。と言うことは、陰ではこっそり会っていて……。
火照り切った頬が徐々に青ざめていく。
ここから逃げ出したくもなった。
いや、今なら帰れるんじゃないか?
二人は未だ会話を続けているし、俺の存在なんか気にしないで欲しい。
……そっか。俺、最初から邪魔な奴だったんだな。
胸が込み上げてきて目尻が熱くなる。もう、逃げたい。いや、逃げよう。ここには居たくない。もう二度と行きたくない。
俺はスクールバッグを取って扉に続く階段を上ろうとした。
「ねぇ、姫路くん帰っちゃうの?」
何で気付いちゃうんだよー!!!
振り返ると二人がこちらを見ている。やめろやめろ、俺はイチャつきを見に来てるわけじゃないんだ。
「えっと、星簇くんとの用事は終わったから帰ろうかなって思って……」
「えー? そうだった? まだお取り込み最中って感じだったけれど……」
天川さんは痛い所を突く。隣にいる星簇くんの顔が見れない。
「本当なんだ」必死に納得させると「そうなの?」と惚け顔で返ってくる。
この時だけ、天川さんのこと可愛いと思えなくなった。話はそれだけかと告げて帰ろうとした。天川さんが再び引き止めた。
「ねぇ、姫路くん」
「な、何……?」
これ以上、俺を惨めにさせないで欲しい。
「まだ、私のこと好き?」
……へ。
「え?!」
「もし良かったらさ、私とデートをしない?」
「へぇ?!?!」
何なんだこの展開は!!
あまりの急展開に頭が追い付かなくなる。しかし、天川さんは再撃してきた。
「私ね、実を言うと姫路くんのことをもっと知りたいって思ったの。だから、これを機会にもっと仲良くなりたい」
「どうかな?」こてんと首を傾げる天川さん。
俺は、気が付いたら首がもげるくらい上下に振っていた。天川さんは綻ばせて、
「じゃあ、近い内に色々決めよ!」
「う、うん……。お、俺なんかでいいの? でも、星簇くんとは付き合ってないの……?」
「彦とはただの同級生だし、そんな仲じゃないよ。もしかして勘違いしちゃった?」
「ち、違……」
違うとは言い切れなかった。二人の関係を勘違いして僻んでいた俺をぶん殴りたい。
「じゃあ、私友達待っているからもう帰るね。彦、明日はちゃんと教室に来るんだよー」
「分かってるってば」
「じゃあね、姫路くん。また明日」
「う、うん。また……」
小さく手を振ると、彼女も嬉しそうに振り返す。そして、スカートをくるり靡き、華麗に地下書庫を出て行った。
扉が完全に閉まった後、俺はくるりと星簇くんの方を見る。同時に彼は視線どころか顔を横に向いていた。
「星簇くんさ、俺に言うことない?」
「聞かれなかったから答えなかっただけだよ。と言うより、天川さんと知り合いってことを知っている人は殆どいないよ」
「そう言う問題じゃねーだろ! 何でそんな大事な情報を今の今まで教えてくれなかったんだよ!!」
今まで募っていた感情が一気に爆発した。星簇くんは隠し切ろうとしてたみたいだが、運命の悪戯によって阻止されたのだ。
いや、バレなきゃ犯罪じゃないとかそう言うことじゃねーし!
バレたら犯罪だし、どっちにしろ犯罪なのには変わりはない。
しかも、重要なのは"俺が天川さんを好き"だという事実の上で犯行が行われていたことだ。しかも何だよ、彦って。親密な関係としか思えない。
「でも、良かったじゃないか。あっちから誘ってくれたよ?」
「そう言うことじゃないから」
「もしかして、隠してた事怒ってるの?」
「だったら何だよ! どーせ、お前、あんな謙虚な態度取ってる癖して天川さんのこと好きなんだろ? だったら、抜け駆けでも略奪でも何でもして付き合えば??」
言い出したら止まらないのはこの事だ。星簇くんが弁明するのを俺は容赦なく遮った。
「お前も天川さんが好きなんだろ? 美男美女カップルでお似合いじゃん。どーせ俺は平々凡々であんな美少女とは釣り合わないさ」
「僕は姫路くん一筋だよ」
「おい!慰めはいいってぇ……」
今更な冗談も精神的苦痛が重なると煩わしい。言い過ぎだと思っているが、感情より言葉が先に出る。
見ての通り、哀れにも自暴自棄になっていた。
「ほら、今なら天川さんの所に追い付けるんじゃない? さっさと告白して公認カップルにでもなっちゃえよ!」
「……ねぇ、本気でそう思ってるの?」
流石の温厚な彼もこれには黙ってない様子だ。だが、今の俺には通用しない。
「だったらなんだよ!」
睨み付けて威勢を張ろうとした。だが、突如腕を引っ張られて俺は壁に押し付けられた。星簇くんは俺を冷徹な目で見下ろしていた。
やばい、言いすぎたか?
「ほ、星簇くん……?」
恐る恐る名前を呼ぶも無視される。完全にご立腹だ。しかも、今回はガチめの。
「本当、思い込みも甚だしいな」
必死に踠くも両腕を縫い付けられたように押さえられる。星簇くんの低い声に肩がビクッと震えた。
「ねぇ、知ってた? 授業をする時って実は生徒よりも先生の方が勉強になってるんだってよ」
……は?
「どう言う意味だ……?」
「まぁ、鈍感な姫路くんには分からないか」
こいつ、また鈍感って言った。
俺のどこかそんなに鈍いんだ。
その言葉を発してしまうと、何か嫌な予感がして飲み込むことにした。その数秒後、星簇くんは押さえ付けていた両腕を解放させた。
「さて。デートプランは一体どうしようか」
いきなり話を始められて素っ頓狂な声が出る。
「は?」
「デート行くんでしょ? その計画を立てなきゃ。でも、恋愛初心者の君じゃ一人では計画できないか」
「むっ、べ、別に俺だってできるし!」
俺だってやる時はやる男なんだ!
星簇くんの力なんか借りなくても……!
不意に目が合い、有無は言わせないという眼差しに小心者へと落ちる。
俺、こいつに敵わないのかもしれない。
「じゃあ、僕とデートして」
「え?!」
「デートの予行練習だって思って構わないからさ。デートプランは姫路くんが練るとして、参考にしていいから」
「ちゃんと予定空けてね?」約束をせがまれ、俺は自然と小指を授けていた。
「うん。指切りね、嘘付いたらぁどうしようか」
「えっ?!」
「冗談だよ。でも、約束だからね」
「お、おう……」
控えめに肯首すれば、端正な顔に華やかさが加わった。俺はその表情を黙って見つめることしかできなかった。
