翌週の月曜日。
「ねー、見た? 昨日のドラマ」
「見た見た。すっごくキュンキュンしたよね」
「そうそう。あと、昨日SNSで見たんだけどさー」
昼休み。絵茉とここねが、私の席の近くでおしゃべりする声が耳に響く。
私は一応聞き役に徹していた。けれど、二人との共通言語を持ち合わせていないのもあって、普段より強い孤独感を覚える。
正直な話。私は二人が語るドラマにもSNSにも興味がないし、黙って話を聞いているこの時間を無駄にしているように感じる。なんなら、朝読書で読んだ本の続きが読みたくて仕方なかった。
でも、今ここで本を取り出してしまったら、たちまち絵茉たちの機嫌を損ねてしまうだろう。
こんなとき、あの子は自由でいいな。と、自分の席で静かに本を読んでいる折野さんをちらりと見やる。彼女には今だけでいいから、私との立場を交換して欲しいものだ。
「澪ーっ、どこ見てんの?」
我に返ると、絵茉がこちらをじっと見つめていた。私を咎めるようなそのその視線に、慌てて「ぼーっとしてただけ」と取り繕う。
でも、絵茉の目は誤魔化せなかったようだ。
「折野さんの席、見てたでしょ」
「いや、別に……」
「ほっときなよ。あの子、あたしら三人とは関係ないし」
ここねも「絵茉の言う通りだよ」と曖昧に笑って同調する。
『あたしら三人』という絵茉の言葉に胸をなで下ろす。よかった。私もちゃんとカウントしてもらえてた。でも、ほっとしたのも束の間のこと。絵茉とここねはまた二人で盛り上がってしまう。
「てか、例の折野さんのノートを見たって子、他にもいるらしいよ」
「えっ、そうなの?」
「そーそー。恨みつらみがいっぱい書いてあったんだって」
「えー、怖っ」
「だよねー」
「だとしたら折野さん、クラス会に誘われなかったこと、相当怒ってるのかな……?」
「いやいやいや。あの人、このクラスのみんなのことが嫌いなんだよ? 逆に誘ったら、今頃ノートのページが真っ黒になってるって」
ノートに自分の黒い気持ちを、わざわざ教室で書く折野さんはどうかと思う。
けど、絵茉とここねも本人がいる場所で、聞こえてもおかしくない声量で陰口を叩いてよく平気でいられるな。
私が内心そんなことを思っていると、タイミングよく昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「やば、もう掃除の時間じゃん!」
「だね。急ごう」
絵茉とここねが素早く椅子から立ち上がり、自分たちの持ち場へと撤収していく。
やっとこの時間から解放された。ほっと胸をなで下ろして、私も席を立って教室を出た。
私の掃除場所は、美術室。
教室のある本校舎とは別棟にあるから、渡り廊下を歩いて向かっていると。
「保科」
背後から声をかけられた。振り向くと、相良くんが立っていた。
あたりは静かで、私たち以外誰もいない。先週のクラス会のとき、カラオケ店の廊下にいたときと同じような状況だ。
「大丈夫? 疲れてるみたいだけど」
「え? そんなことないよ」
傍から見てもわかるほど、よほど疲れた顔をしているのだろうか。あまり気に病まれるのも困るので、笑顔の仮面をかぶって否定した。でも、反対に相良くんは能面のような無表情のまま。一呼吸置くと、彼は静かに口を開いた。
「あの二人といて楽しい?」
「絵茉と、ここねのこと……?」
相良くんは小さくうなずいた。
「楽しい……、よ。何でそんなこと聞くの?」
「俺には保科が無理しているように見える」
相良くんのワントーン落ちた真剣な声が、私の中で波紋のように広がっていく。
なんだか心の内を見透かされたような気分だ。
「折野みたいになれとは言わない。でも、もう少し自分の気持ちに正直になったほうがいいんじゃないか?」
「何……、言ってるの……?」
「だから、あいつらと無理に仲良くしようとしなくてもいいって……」
「無理なんて、してないから」
かろうじて声を絞り出した私は、走って美術室へと向かった。
これ以上相良くんと話したくなかった。無理してるように見えるから、もう少し自分の気持ちに正直になれなんて言われても。それで本当に一人ぼっちになったからって、相良くんが責任を取ってくれるとは限らない。
それに、私は私で努力している。絵茉とここねと仲良くして、折野さんみたいな一人ぼっちにならないように。
「ねー、見た? 昨日のドラマ」
「見た見た。すっごくキュンキュンしたよね」
「そうそう。あと、昨日SNSで見たんだけどさー」
昼休み。絵茉とここねが、私の席の近くでおしゃべりする声が耳に響く。
私は一応聞き役に徹していた。けれど、二人との共通言語を持ち合わせていないのもあって、普段より強い孤独感を覚える。
正直な話。私は二人が語るドラマにもSNSにも興味がないし、黙って話を聞いているこの時間を無駄にしているように感じる。なんなら、朝読書で読んだ本の続きが読みたくて仕方なかった。
でも、今ここで本を取り出してしまったら、たちまち絵茉たちの機嫌を損ねてしまうだろう。
こんなとき、あの子は自由でいいな。と、自分の席で静かに本を読んでいる折野さんをちらりと見やる。彼女には今だけでいいから、私との立場を交換して欲しいものだ。
「澪ーっ、どこ見てんの?」
我に返ると、絵茉がこちらをじっと見つめていた。私を咎めるようなそのその視線に、慌てて「ぼーっとしてただけ」と取り繕う。
でも、絵茉の目は誤魔化せなかったようだ。
「折野さんの席、見てたでしょ」
「いや、別に……」
「ほっときなよ。あの子、あたしら三人とは関係ないし」
ここねも「絵茉の言う通りだよ」と曖昧に笑って同調する。
『あたしら三人』という絵茉の言葉に胸をなで下ろす。よかった。私もちゃんとカウントしてもらえてた。でも、ほっとしたのも束の間のこと。絵茉とここねはまた二人で盛り上がってしまう。
「てか、例の折野さんのノートを見たって子、他にもいるらしいよ」
「えっ、そうなの?」
「そーそー。恨みつらみがいっぱい書いてあったんだって」
「えー、怖っ」
「だよねー」
「だとしたら折野さん、クラス会に誘われなかったこと、相当怒ってるのかな……?」
「いやいやいや。あの人、このクラスのみんなのことが嫌いなんだよ? 逆に誘ったら、今頃ノートのページが真っ黒になってるって」
ノートに自分の黒い気持ちを、わざわざ教室で書く折野さんはどうかと思う。
けど、絵茉とここねも本人がいる場所で、聞こえてもおかしくない声量で陰口を叩いてよく平気でいられるな。
私が内心そんなことを思っていると、タイミングよく昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「やば、もう掃除の時間じゃん!」
「だね。急ごう」
絵茉とここねが素早く椅子から立ち上がり、自分たちの持ち場へと撤収していく。
やっとこの時間から解放された。ほっと胸をなで下ろして、私も席を立って教室を出た。
私の掃除場所は、美術室。
教室のある本校舎とは別棟にあるから、渡り廊下を歩いて向かっていると。
「保科」
背後から声をかけられた。振り向くと、相良くんが立っていた。
あたりは静かで、私たち以外誰もいない。先週のクラス会のとき、カラオケ店の廊下にいたときと同じような状況だ。
「大丈夫? 疲れてるみたいだけど」
「え? そんなことないよ」
傍から見てもわかるほど、よほど疲れた顔をしているのだろうか。あまり気に病まれるのも困るので、笑顔の仮面をかぶって否定した。でも、反対に相良くんは能面のような無表情のまま。一呼吸置くと、彼は静かに口を開いた。
「あの二人といて楽しい?」
「絵茉と、ここねのこと……?」
相良くんは小さくうなずいた。
「楽しい……、よ。何でそんなこと聞くの?」
「俺には保科が無理しているように見える」
相良くんのワントーン落ちた真剣な声が、私の中で波紋のように広がっていく。
なんだか心の内を見透かされたような気分だ。
「折野みたいになれとは言わない。でも、もう少し自分の気持ちに正直になったほうがいいんじゃないか?」
「何……、言ってるの……?」
「だから、あいつらと無理に仲良くしようとしなくてもいいって……」
「無理なんて、してないから」
かろうじて声を絞り出した私は、走って美術室へと向かった。
これ以上相良くんと話したくなかった。無理してるように見えるから、もう少し自分の気持ちに正直になれなんて言われても。それで本当に一人ぼっちになったからって、相良くんが責任を取ってくれるとは限らない。
それに、私は私で努力している。絵茉とここねと仲良くして、折野さんみたいな一人ぼっちにならないように。



