風と共に生きた ─とある男の、小さな物語

冬の匂いが、空気に混じり始めた。

朝は吐く息が白く、
日暮れもどんどん早くなっていく。

村の人たちは、忙しそうに冬支度をしていた。

薪を積み上げる者。
畑を片付ける者。
家畜たちに厚い毛布をかける者。

そのどれもが、
どこか、少しだけ活気に満ちていた。


俺も、変わらず修行を続けていた。

剣の素振り。
そして、風魔法の制御。

寒さに震えながら、
それでも手を止めなかった。

指先はかじかみ、
魔素を練るのも一苦労だったけれど。

それでも──

(前より、ずっとスムーズに集まる)

ふと、そう思った。


風を作る。

まだ小さなものだけれど、
手のひらに集まった魔素が、確かに形を持って動く。

思い通りに、空気が揺れる。

(できた──)

心の中で、静かにガッツポーズを取った。

もちろん、
まだまだ拙い。

ティオに見せたら、笑われるかもしれない。

でも、
それでも。

数ヶ月前の自分より、
確実に前に進んでいる。

そんな確信だけは、胸にあった。


ある日。

広場で、ティオと剣の稽古をしていたとき。

ふと、ティオが言った。

「なあ、ライナス。なんか最近、お前、すっげー落ち着いてね?」

「落ち着いて?」

「うん。前はもっと、こう……バタバタしてたっていうか?」

ティオは、剣を振りながら、無邪気に笑った。

俺は、ちょっとだけ苦笑して、
それでも、心の中が温かくなるのを感じた。

──努力は、きっとちゃんと伝わっている。

自分では気づかない変化も、
誰かが見てくれている。

それは、
想像していたよりも、ずっと嬉しいことだった。


雪が降り始めるまで、
もうそう遠くはない。

世界が白く染まる季節が、
すぐそこまで来ていた。

そして、その先には、
また新しい何かが待っている気がした。

──ライナス、七歳の冬。

白い息の中で、
俺は静かに、自分の成長を噛み締めていた。