秋も深まり、村の木々が色づき始めたころ。
俺は、魔法の修行にさらに力を入れるようになった。
剣の素振りは、朝に。
昼はティオとの遊びや修行。
そして夕方、
一人静かな場所を見つけて、魔法の練習に励んだ。
•
風を集める。
力を込める。
意図通りに操る。
──口で言うのは簡単だった。
けれど実際は、
魔素は思ったように集まってくれない。
たったひとつの風の刃を作るだけで、
何度も何度も失敗した。
掌の上で、風はすぐに散ってしまう。
まとまらない。
形にならない。
くやしい。
歯がゆい。
それでも、あきらめたくなかった。
•
思い出すのは──
あの日。
小さな女の子を助けたとき、
俺は確かに、魔法を使った。
あのとき、
必死で、無我夢中で。
気がついたら、
風が吹き荒れて、魔物を追い払っていた。
(なのに……)
今、冷静に魔素を集めようとしても、
あの日のようにはうまくいかない。
心のどこかで、焦りが広がる。
(感情任せの力じゃ、駄目だ)
あのときは、
ただ必死だったからこそ、一瞬だけ引き出せた奇跡だったのかもしれない。
本当に、
意図して力を操れるようにならなければ。
──守りたいものを守るために。
•
周囲の子供たちも、
簡単な魔法を使うのが当たり前になっていた。
ティオだって、
小さな突風くらいは起こせる。
(なのに、俺は──)
焦りが、じわじわと胸を締め付けた。
•
ある日。
またも練習に失敗し、地面に手をついてうなだれた。
手のひらには、泥がついていた。
「……なんで」
誰にも聞こえない声が、
ふっと漏れた。
•
そのとき、
背後から声がした。
「ライナス」
振り返ると、父がいた。
いつの間にか、
そっと俺を見守っていたらしい。
父は、にっこり笑った。
「できないことは、悪いことじゃない」
•
父は、俺の隣にしゃがみ込んだ。
「できないってことは──それだけ、伸びしろがあるってことだ」
俺は、顔を伏せた。
悔しかった。
情けなかった。
でも、父の言葉が、
胸の奥に、じわりと染み込んでいくのを感じた。
「焦らなくていい。お前はちゃんと歩いてる。な?」
父は、俺の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
その温もりに、
張り詰めていた心が、少しだけ緩んだ。
•
夜、星空を見上げた。
(焦らなくていい──か)
空高く瞬く星は、
俺の小さな悩みなんて、まるで気にも留めないように輝いていた。
──でも、俺は知っている。
この手で、
もう一度、ちゃんと力を掴みたい。
本当の力を、
自分の意志で、扱えるようになりたい。
俺は、
もう一度、心に誓った。
簡単には諦めない。
この世界で、
大切なものを守れる自分になるために。
どんなに時間がかかっても、
少しずつでも、前に進もう。
•
──ライナス、七歳の秋。
俺として初めての、本当の「挫折」。
けれど、
それを越えるための、小さな覚悟が芽生えた夜だった。
俺は、魔法の修行にさらに力を入れるようになった。
剣の素振りは、朝に。
昼はティオとの遊びや修行。
そして夕方、
一人静かな場所を見つけて、魔法の練習に励んだ。
•
風を集める。
力を込める。
意図通りに操る。
──口で言うのは簡単だった。
けれど実際は、
魔素は思ったように集まってくれない。
たったひとつの風の刃を作るだけで、
何度も何度も失敗した。
掌の上で、風はすぐに散ってしまう。
まとまらない。
形にならない。
くやしい。
歯がゆい。
それでも、あきらめたくなかった。
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思い出すのは──
あの日。
小さな女の子を助けたとき、
俺は確かに、魔法を使った。
あのとき、
必死で、無我夢中で。
気がついたら、
風が吹き荒れて、魔物を追い払っていた。
(なのに……)
今、冷静に魔素を集めようとしても、
あの日のようにはうまくいかない。
心のどこかで、焦りが広がる。
(感情任せの力じゃ、駄目だ)
あのときは、
ただ必死だったからこそ、一瞬だけ引き出せた奇跡だったのかもしれない。
本当に、
意図して力を操れるようにならなければ。
──守りたいものを守るために。
•
周囲の子供たちも、
簡単な魔法を使うのが当たり前になっていた。
ティオだって、
小さな突風くらいは起こせる。
(なのに、俺は──)
焦りが、じわじわと胸を締め付けた。
•
ある日。
またも練習に失敗し、地面に手をついてうなだれた。
手のひらには、泥がついていた。
「……なんで」
誰にも聞こえない声が、
ふっと漏れた。
•
そのとき、
背後から声がした。
「ライナス」
振り返ると、父がいた。
いつの間にか、
そっと俺を見守っていたらしい。
父は、にっこり笑った。
「できないことは、悪いことじゃない」
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父は、俺の隣にしゃがみ込んだ。
「できないってことは──それだけ、伸びしろがあるってことだ」
俺は、顔を伏せた。
悔しかった。
情けなかった。
でも、父の言葉が、
胸の奥に、じわりと染み込んでいくのを感じた。
「焦らなくていい。お前はちゃんと歩いてる。な?」
父は、俺の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
その温もりに、
張り詰めていた心が、少しだけ緩んだ。
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夜、星空を見上げた。
(焦らなくていい──か)
空高く瞬く星は、
俺の小さな悩みなんて、まるで気にも留めないように輝いていた。
──でも、俺は知っている。
この手で、
もう一度、ちゃんと力を掴みたい。
本当の力を、
自分の意志で、扱えるようになりたい。
俺は、
もう一度、心に誓った。
簡単には諦めない。
この世界で、
大切なものを守れる自分になるために。
どんなに時間がかかっても、
少しずつでも、前に進もう。
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──ライナス、七歳の秋。
俺として初めての、本当の「挫折」。
けれど、
それを越えるための、小さな覚悟が芽生えた夜だった。
