風と共に生きた ─とある男の、小さな物語

秋が深まるころ、
村の空気はひんやりと澄んでいた。

広場では、子供たちが元気に走り回り、
焚き火の煙が空に昇っていく。

そんな中、俺たちは、今日も修行を続けていた。


剣の素振り。

風魔法の制御。

どちらも、まだまだ未熟だったけれど、
少しずつ、手応えを感じ始めていた。

剣を振る腕に、芯が通る。
風を集める手に、確かな重みを感じる。

努力は、裏切らない。

最近は、そんな実感を持てるようになってきた。


周囲の子供たちも、
小さな魔法を使うのが当たり前になっていた。
•転んだ友達を助けるために、風で体を支えたり
•遠くのボールを軽く浮かせたり
•焚き火の火をちょっとだけ大きくしたり

そんな光景が、広場では日常だった。

特別なことじゃない。
この世界では、魔法もまた「生活の一部」だった。


ティオも、
風を起こして落ち葉を吹き飛ばしたりしていた。

「な、すげーだろ?」

得意げなティオに、俺は笑った。

「俺も、負けないからな」

そう言って、
両手に魔素を集め、
そっと地面に向かって風を走らせる。

ふわり、と落ち葉が舞い上がる。




そんなある日。

父に、言われた。

「ライナス。剣も魔法も、どちらも大事だ。だが──どちらかに、もう一歩踏み込んでみるのもいい」

「踏み込む……?」

「自分の強みを、育てるんだ」

父は、俺の頭に手を置いて言った。

「無理に得意じゃないことを伸ばす必要はない。お前に向いてる道を、しっかり歩け」


夜。

星空の下で、一人考えた。

剣と魔法。
どちらも、大切だ。

だけど──

俺は、
この手で、もっと遠くへ届きたい。

守りたい人たちを、
もっと確実に、確かに守れるようになりたい。

(俺にできることは……)

そっと、手を広げる。

掌に集まる、かすかな風。

──これだ。

俺は、心の中で、そっと決めた。

剣も鍛えながら。
だけど、
魔法にも、もっと本気で向き合おう。

俺には、
この世界でしか手にできない力がある。

それを、育てよう。


──ライナス、七歳の秋。

小さな一歩。
けれど、確かに未来へ続く、一歩だった。