風と共に生きた ─とある男の、小さな物語

夏の陽射しが強くなるころ、
俺とティオは、広場の隅を”修行場”にしていた。

誰に言われたわけでもない。
自然と、そうなっていた。


お互いに木の枝を剣に見立てて、
構え、打ち合う。

最初は、子供同士のじゃれあいだった。
けれど、
何度も繰り返すうちに、
少しずつ、動きに重みが出てきた。

剣を振るたびに、汗が滲む。
腕が痛くなる。
足がもつれる。

それでも、
ティオは楽しそうに笑った。

「負けねーぞ、ライナス!」

「こっちこそ!」

息を切らしながら、
何度も、何度も打ち合った。


一人で修行していたころは、
ただ黙々と、自分との戦いだった。

だけど、今は違う。

目の前に、
同じように必死で戦う仲間がいる。

負けたくないと思う。
でも、同時に、
一緒に強くなりたいとも思う。

不思議な感覚だった。


ある日のこと。

俺が、転んだ。

体勢を崩し、尻もちをつく。

ティオは、すぐに手を差し伸べてきた。

「大丈夫か?」

その手を見て、
思った。

──ああ、俺は、一人じゃないんだ。

前世で、
ずっと感じていた孤独。

ここでは、
少しずつ、少しずつ、溶けていく。

俺は、ティオの手を掴んで、立ち上がった。

そして、
心から、笑った。


「オレたち、きっとすっげー強くなるよな!」

ティオが、
太陽みたいな笑顔で言った。

「ああ」

俺も、
はっきりと頷いた。

未来のことなんて、まだわからない。
けれど──

今、この瞬間だけは、
そう信じられた。


──ライナス、七歳の夏。

一人じゃない。
肩を並べて歩くことの、
小さな喜びを知った日々だった。