風と共に生きた ─とある男の、小さな物語

それから、俺とティオは、
ほぼ毎日のように一緒に過ごすようになった。

朝、広場に行けばティオが待っていて。
午後には、木の枝を剣に見立てて戦いごっこをして。
夕暮れには、肩で息をしながら並んで座った。


ティオは、陽気なやつだった。

小さなことに大笑いして、
すぐにふてくされて、
またすぐに立ち直る。

まるで、子供らしさを絵に描いたような存在だった。

そんなティオと一緒にいるうちに、
俺も自然と笑う回数が増えていた。

最初は戸惑っていた。
前世では、人とこんなふうに笑い合った記憶なんて、ほとんどなかったから。

だけど、今は──

笑うのが、悪くないと思った。


ある日のこと。

二人で小さな丘に登り、
村を見下ろしていたとき。

ティオが、ぽつりと言った。

「なあ、ライナス。オレ、将来すっげー騎士になるんだ!」

「騎士?」

「そう! 強くて、かっこよくて、みんなを守るんだ!」

ティオは、目を輝かせていた。

その横顔を見て、
俺は、ふと羨ましいと思った。

(俺には、そんな夢……あったっけ)


「ライナスは、何になりたい?」

突然、ティオに聞かれた。

言葉に詰まる。

──なりたいもの。

そんなこと、考えたことがなかった。

前世では、
ただ、目の前を流されるように生きていた。

夢も、目標も、持たなかった。

でも。

今の俺には、
守りたいものがある。

フィリア。
家族。
そして、ここで出会った人たち。

それを守れるくらいには、
強くなりたい。

「……強い人に、なりたい」

やっと絞り出した言葉に、
ティオは満面の笑みを浮かべた。

「そっか! いいな、オレもだ!」

そんなふうに、
まるで当たり前みたいに言ってくれるティオが、
たまらなく嬉しかった。


空を見上げると、
高い高い青が、どこまでも広がっていた。

その下で、
小さな俺たちは、
未来に向かって、確かに踏み出し始めていた。

──ライナス、七歳の夏。

初めての「友達」との絆が、
静かに、でも確かに結ばれていった。