風と共に生きた ─とある男の、小さな物語

七歳になった春。
俺は、村の中でなら一人で歩き回れるくらいに成長していた。

剣の練習も、魔法の修行も、まだまだ拙いけれど、
小さな自信を少しずつ胸に育てていた。

そして、
世界は、少しだけ広がろうとしていた。


ある日の昼下がり。

広場で顔見知りの子供たち──
同じ年頃の少年少女たちが集まって、
何やら話し込んでいるのを見かけた。

「なあ、あっちの林の向こう、行ってみねえか?」

「え、でも……親に怒られるかも」

「ちょっとだけだよ。すぐ戻ってくるって!」

無邪気な誘い。
それに戸惑いながらも興味をそそられる面々。

俺も、
声をかけられた。

「ライナス、お前も来るか?」

正直、迷った。

危ないことは、避けろと父に言われている。
でも──

胸の奥が、ざわざわと騒いだ。

前世で、
世界に背を向けて生きた俺。

今度こそ、
世界を、少しでも受け入れたい。

──だから。

「うん、行く」

そう答えた。


林の向こうは、
想像していたよりも静かだった。

木々の間を風が抜け、
柔らかな陽射しが差し込む。

足元には、見慣れない花が咲いていた。

俺たちは、はしゃぎながら林を抜け、
小さな川辺にたどり着いた。

水がきらきらと光っている。

思わず、
笑ってしまった。

(こんな世界が、すぐ近くにあったんだな)


そのとき。

「きゃっ!」

誰かが悲鳴を上げた。

見ると、小柄な女の子が足を滑らせ、
川岸に落ちかけていた。

咄嗟に──
体が動いた。

俺は、手を伸ばし、
ぎりぎりのところでその子の手を掴んだ。

「だ、大丈夫か!?」

息を切らしながら引き上げる。

女の子は、
涙目でこくりと頷いた。

ホッと胸を撫で下ろした瞬間、
背後から声がかかった。

「お、お前、すげえな!」

振り返ると、
短い金髪の少年が、目を輝かせて俺を見ていた。

「オレ、ティオっていうんだ! すっげー! お前、かっこよかった!」

興奮気味に、ティオと名乗った少年が、
無邪気に手を差し出してきた。

俺も、思わず笑って、その手を握った。

──こうして。

俺は、生まれて初めて、
自分から誰かと「友達」になった。


帰り道、
俺はふと思った。

もし、あのとき一歩踏み出していなかったら。
もし、怖がって断っていたら。

この出会いは、なかったかもしれない。

(少しだけ、変われたのかな)

そんな、
小さな、小さな確信。

──ライナス、七歳の春。

小さな冒険と、小さな出会い。
それは、俺の世界を、また一回り広げた。