ルーナは思わず絶句してしまったのでした。
 その中でもシャルル様はふたり分の荷物を受け取ると、馬車はすぐに出発していってしまったのでした。
 屋敷の外観はどう見ても、シャルル様のような良い家柄の人が住んでいるような雰囲気を感じることが出来ず、まるで廃墟のような外観をしており失礼を承知の上、私はシャルル様に尋ねます。
 なぜルーナがそう感じたのか、それは屋敷の周りを囲んでいる塀にはツルが伸び放題、窓ガラスは割れておりクモの巣がかかり、草は生え放題だったのです。
 隣の屋敷と比べると人が住んでいるとは思えなかったのです。
 「本当にここでございますか?」
 「もちろん」
 シャルルは、自信ありげにルーナに言ってくるではありませんか。
 「あ、忘れていたよ」
 そういうとシャルルは、内ポケットからネックレスを取り出したのでした。
 (ネックレス?)
 ルーナは首をかしげ、シャルルはネックレスについて説明します。
 「これはね、魔法のネックレスだよ」
 そういうと、シャルルはルーナに後ろを向くように言うとネックレスを着けてくれました。
 月の形をした青色に輝くネックレスでした。
 「キレイ」
 「君の名前をイメージして作ってもらったんだ」
 私の名前の名前であるルーナは『月』を意味するのである。
 「ありがとうございます」
 ルーナはネックレスから目を離し再び屋敷を見てみるとさっきとは異なりきれいな屋敷に変わっているではありませんか。
 (ど、どういうこと!)
 ルーナの瞳に見えた屋敷の周囲を緑色の何かが囲っているのが見える。
 「ルーナ、これが本当の屋敷の姿だよ。僕の魔法で他の人たちには、少し古びてみえるだけなんだよ」
 「そうなんですね。あのシャルル様、この緑色の物はなんですか?」
 「ああ、それは結界だよ。詳しいことは中で話すよ。さあ、そろそろ中に入ろう」
 シャルルにとっては当たり前のことなのですがルーナにとっては当たり前ではないので呆気にとられてしまったのでした。
 「そうですか……」 


 門が音を立てて開くと、屋敷まで続く道を歩き玄関を開けるとそこには、一人の年老いた男性が立っていたのでした。
 「おかえりなさいませ、シャルル坊っちゃま」
 「ああ、戻ったよ。エドモンド、ところで二人は?」
 そういうとシャルルは、その男性を近くに呼び寄せる。
 「二人は、ただいま買い物に出掛けており留守にしております」
 「そうか。まず一人だけ紹介することにするよ。彼は、執事のエドモンド。僕の身の回りのことをなんでもしてくている人なんだ。あと二人メイドがいるのだけど個別でルーナに挨拶するように言っておくよ」
 エドモンドと呼ばれた、男性にルーナはお辞儀をする。
 「はい」
 「こちらは、ルーナ」
 エドモンドの姿をじっくりとみてしまうルーナ。
 年を取っているが、背筋が伸びるていて、黒色のタキシードに髪の毛は白髪で片目には、小さな眼鏡をしている。
 気品が溢れていて、優しそうな雰囲気が伝わってくる。
 「はじめましてルーナ様。お目にかかれて光栄でございます。執事のエドモンドでございます」
 ルーナも後に続いて自己紹介をする。
 「今日からこのお屋敷で暮らすことになったルーナと申します。よろしくお願いいたします。エドモンド様」
 「私の呼び方は、エドモンドでよろしいでございますよ。ルーナ様」
 でもそれではと思いルーナは少し悩んだ後にいいました。
 「それでは、失礼にあたります。もしよければ、エドモンドさんとお呼びしてもよろしいですか?」
 「承知いたしました。ではその呼び名でお呼びになってください」
 「はい。ありがとうございます」
 紹介が終わると、シャルルとエドモンドが少しの間会話している。
 (メイドのおふたりは、どんな人なのだろうか?)
 ルーナはメイドのふたりに会えることが楽しみで色々と考えを膨らませるのでした。
 玄関ホールを見回すとホコリもなくキレイで汚れていない床や階段の手すりをみて圧倒させられてしまう。
 いつもメイドの方々が綺麗に掃除されている証拠である。
 「ルーナ、二階に行こう」
 シャルルがルーナにいいました。
 エドモンドと別れてシャルルと共に階段を上りルーナの部屋までいくことになりました。
 歩きながら、シャルル様がさっきのことを説明してくれたのでした。
 シャルル様によると、この屋敷はシャルル様の魔法で守られており、さっきの結界?というもので人間には、古びた屋敷に見えるが、この結界を解除するアイテムを持っている人には本来の屋敷の姿に見えていているのだという。
 結界の魔法をかけているのは、妙なものを寄せ付けないようにするために魔法をかけているのだそう。
 「着いたよ。ここが今日からルーナの部屋だよ」
 ドアを開くと、すぐに瞳についたのは天蓋のついた大きなベッド、室内に入ると横のテーブルにはランプが置かれており、ドレッサーや棚が備え付けられていて、窓の近くには、木目調の丸いテーブルに一人用のソファが置かれていたのでした。
 「どうかな?」
 息をするのも忘れてしまいそうになるほどに私のことを考えてシャルル様が選んでくれた部屋を見て思う。
 「素敵です。素敵すぎます。シャルル様」
 「こんなに喜んでくれるなんて思っていなかったから嬉しいよ」
 「あの、ベッドに座ってもいいですか?」
 「もちろんだよ、ルーナの部屋なんだから」
 シャルルがそういうと、すぐにベッドにルーナは座ります。
 ベッドはフカフカで埋もれてしまいそうになるほどであった。
 嬉しさのあまり何度も部屋をルーナは見渡すのでした。
 (今日からここが私の部屋なのか。夢みたい)
 あの屋根裏部屋の薄暗い部屋からこんなにも明るく立派な部屋が、私の部屋になるなんて思いもしなかった。
 「ルーナ疲れただろう。しばらく休むといい」
 シャルル様は話し終えると、丸いテーブルにダークグリーンの紙袋を置いたのでした。
 「本当にありがとうございます。シャルル様」
 シャルルは、ルーナに微笑んでくれた。
 「じゃあ、僕も自分の部屋に戻るね」
 私が立ち上がるとシャルル様は部屋から出ていったのでした。
 シャルル様が出ていくと、丸いテーブルに置いてある紙袋のもとへと近づく、ムーン横丁でシャルル様が洋服屋で受け取っていたものである。
 箱を持ってみるが重さはあまりなく開けてみることに、そっと蓋をあけると中には空色のワンピースが入っていて箱からワンピースを取り出し広げる。
 「素敵」
 (こんな洋服の贈り物までくれるなんて……)
 

 まだ明るかった空の色がいつの間にか暗くなった頃、ドアをノックする音がした。
 「はい」
 ドアを開くと、一人の可愛らしい女性が立っていたのでした。
 「初めましてルーナ様このお屋敷でメイドをしておりますリリーと申します」
 ルーナも慌てて自己紹介をする。
 「は、初めまして今日からこのお屋敷で暮らすことになったルーナと申します。これからよろしくお願いいたします」
 「よろしくお願いいたします」
 リリーは栗色の髪の毛をしていて優しい見た目でリスに似ているとルーナは思った。
 「ルーナ様、夕食の準備が出来ましたので呼びに参りました」
 「そうでしたか」
 「ルーナ様、参りましょうか」
 「はい」
 ルーナは扉を閉めると、食堂までの道をリリーとともに歩いていく。
 「実は、もう一人メイドがいるのですが、明日にでも紹介出来ればと思っております」
 「はい」
 もう一人のメイドの人はどんな人なのだろうかと楽しみなルーナなのでした。
 話をしているうちに、食事をする部屋に着いたのでした。
 「ルーナ様、こちらでございます」
 「ありがとうございます」
 リリーさんが椅子を引いてくれて席に着いた。
 少し長めのテーブルに真ん中に花が飾っていて、フォークやナイフが並べられている。
 少しするとほどなくしてシャルル様がやって来た。
 「お待たせ、ルーナ」
 エドモンドさんがシャルル様の椅子を引きシャルル様が椅子に座ると、料理が運ばれてきた。
 最初に前菜が運ばれてきて、チーズのようである。
 ルーナは慎重な面持ちでひとくち、口に運んだ。
 (美味しい)
 「どうかな?口にあうかい?」
 「はい。美味しいです」
 「それはよかった」
 次々と料理が運ばれ、最後にデザートが運ばれきた。
 初めてみる食べ物であった形は三角に切られている。
 「シャルル様、これは何と言う名前の食べ物ですか?」
 「それはね、アップルパイといってリンゴを使っているスイーツだよ」
 「リンゴですか」
 ひとくち、口に運んでみる。
 「美味しい、美味しいです」
 美味しさのあまり大きな声を出してしまいました。
 「す、すみません。大きな声出してしまって」
 「アップルパイがお気に召したようだね」
 私が今まで食べたものの中で、一番好みの味でした。
 「はい。とても」
 夕食を終えて部屋に戻りトランクから日記帳を取り出し日記を記していく。
 『ようやくフルスに到着した。シャルル様に月の形のネックレスをいただきいた。立派な屋敷で自分の部屋まであり、どの家具もこだわりが詰まっている部屋だった。執事のエドモンドさん、メイドのリリーさん、二人ともとてもお優しそうで、素敵な人たちだった。早くもう一人のメイドさんにお会いしたいです。贈っていただいたものすべて大切にしていきたい』
 日記を書き終えると温かいベッドに入り、教会を出てからの出来事を思い返していた、新しい人々とも出会った。
 こんなに温かく受け入れてくれるなんて思わなかったけれど、受け入れられたと感じられた瞬間、本当に嬉しかった。
 そんなことを思い返しているといつの間にかルーナは眠りについていたのでした。