部屋中に自分の心臓の音が響いているみたいだった。これ以上自分の思いを口にしたら、壊れてしまいそうだ。こんなに強い思いを僕は抱えたことがない。好きって、めちゃくちゃ重たいんだ。
 高宮の袖を掴んだ指先が痺れてくる。じんじんと、その指先から思いが高宮に伝わってしまいそうなくらい──、
「高宮が、好きなんだ」

 言ってしまった。やばい。やばい。どうしよう。顔が熱い。手も震えてる。口にした言葉を取り消す機能なんて……あるわけない。明るく誤魔化すスキルも持っていない。高宮、引かないで、お願い。
 怖くて顔が上げられない。肩を強張らせて首をすくめ、目をぎゅっとつむる。

「……朝斗」
 優しい声色で名前を呼ばれた。その声に励まされて、おそるおそる目を開けてみる。目の前の高宮は、ただ真っ直ぐに僕だけを見てくれていた。
 次の瞬間。高宮の手がそっと僕の頬に触れた。動揺する僕をなだめるかのように、高宮の大きくてあたたかい手が僕を包む。
「朝斗に取られたわ。俺から言おうと思ってたのに」
 呟くような声と一緒に、距離が縮まっていく。ゼロ距離よりさらに近くなったところで、やっと何が僕の身に起こるのかを理解した。
「俺も好きだ」
 まぶたを閉じた僕に優しく降ってくる高宮の言葉。そっと、まるで壊れ物に触れるみたいに、高宮の唇が僕に重なった。

 ……唇が離れたあと、僕たちは数センチの距離で、呼吸もできずに見つめ合った。
 時が止まっているのか、一瞬のことだったのか、それとも永遠の中にいるのか。頭が現実を受け止めきれないでいる。
 高宮もきっと同じ気持ちでいるんだと思う。だって、こんな……不安と嬉しさと、全部が入り混じったような顔、初めて見たから。

「……やべぇ」
 先に声を漏らしたのは、高宮だった。赤くなった顔をぐしゃぐしゃにして、へたりこむようにしてラグにあぐらをかいた。
「マジで、朝斗には勝てねぇわ」
 はは、と脱力したように笑う姿は、いつもの高宮らしくなくちょっぴり情けないオーラを発している。
 こんな高宮を見れるのは僕だけなんだと思うと、あらためてその……キ、キスの余韻が身体中を駆け巡った。うわぁ、もうどうしたらいいんだ!
 両手で顔を隠しても、熱は身体の奥から込み上げてくる。どんなに隠しても、僕は高宮のことが好きで好きで、仕方なかった。
「……だって、ずっと……好きだったんだもん」
 もごもごと手の中で言い訳にならない言い訳をする。ちらりと隙間から見たら、高宮も同じように口元を握ったこぶしで覆っている。高宮ってこんなに可愛かったっけ、と愛おしさに胸がキュンとなった。

 二人して、どうしようもなく格好が悪くて不器用で。だけどたぶん、今までで一番本音でつながった時間だった。
 ぱたりと間が空いて、堪えきれず、ふたり同時に顔を見合わせてぷっと吹き出す。高宮の心と、磁石みたいにくっついた。
「朝斗」
 笑いながら高宮がいたずらっぽく目を細めた。
「ん?」
「キス、デミグラスソースの味だったな」
「っ……!」
 顔がまた真っ赤になる。なにそれ、どんだけ恥ずかしいんだよ。これだから陽キャはもう。
「……バカ」

 ──もう。高宮の、ばか。
 世界でいちばん、好きだ。