「高宮……」
「SNS見て、我慢出来なくて、さ」
──嘘。思いもかけないことに、言葉を失った。早く高宮に会いたいとは思ったけれど、本当に来てくれるなんて。
「あの写真。メンチカツ作ったの、朝斗だよな」
「……分かってくれたんだ」
「分かったに決まってんだろ。いつも朝斗のメシ見てきたんだから」
高宮の口調はどこか怒ったみたいに強くて、だけど少し余裕がなさそうで。いつもと違う雰囲気に胸が騒がしくなった。リオさんのコメント──「最初に食えた人羨ましい」って気持ち、本物だって受け取ってもいいのかな。
「どうした佐倉君、お客さん?」
ホールから奥村さんがやって来た。
「あ、えと、友だちって言うか……」
僕が言い淀むと、高宮は言葉を奪うかのように横入りした。
「朝斗のメンチカツ食いに来たんですけど」
奥村さんは、「あっ」と言って申し訳なさそうに高宮に向かって言った。
「すみません。メンチカツプレート、今ラストオーダー出ちゃったんです」
「……そうですか」
「他のものでしたらご用意出来ますけど」
「いいです。また来ます」
高宮は奥村さんに向かって小さく頭を下げると、僕に視線を向けた。
「朝斗が頑張ってるとこ見れてよかった。じゃあな」
「うん、来てくれてありがと」
高宮が僕に向けた笑顔はどことなくさみしそうにも見えて、僕は去って行く高宮の背中に向けて、待ってと言いそうになって慌てて口を閉じた。
厨房に戻ってもうひと頑張りしないといけない。今はまだ、高宮の背中は追えない。
(本当は、一番食べてもらいたいのは高宮なんだよ)
心の中で、高宮に向けてそう呟いた。
「友だちには悪いことしちゃったね」
奥村さんが、厨房でラストオーダーの仕上げをする僕に声を掛けてくれた。
「あ、はい」
「彼、佐倉君のこと心配してたのかな。よっぽど佐倉君の作ったメンチカツ食べたかったんだろうね、僕のこと睨んでるみたいだったよ」
「いや、いやそんなことないですよ」
軽く返そうとしたけれど、声が上ずった。
「それならいいんだけどさ」
奥村さんが明るく笑って、付け加える。
「佐倉君のメンチカツ、あの友だちもリオも食べたがってるじゃん。よっ人気者」
「や、やめて下さいよ」
奥村さんの軽口に誤魔化し笑いを浮かべながら、頭の別の部分で考える。奥村さんを睨んだってどういうこと? 高宮、僕の何を気にしてくれてるの?
バイトを終えた帰り道、僕は何度もスマホを立ち上げては、メッセージがないか確認をしながら歩く。来てほしい人──高宮からの通知はない。
立ち止まってスマホを見つめた。また僕は高宮からの反応を待っているばかりになっているよな。好きという気持ちをいつまで隠しておける? いつまでただの友だちでいるつもりなんだ?
暗いスマホの画面をずっと見たって答えが見つかるわけじゃない。このまま待っているだけじゃなにも変わらない。
僕はもうただの陰キャじゃない。高宮のことを好きな気持ちが抑えきれない陰キャだ。
思いきってメッセージアプリを立ち上げ、高宮とのトーク画面をタップする。なんども深呼吸をして、打ち込んだ一文を送信した。
「高宮、もうご飯食べた?」
ドキドキが止まらない。食べちゃってたら、この口実はもう使えない。
しばらくして、返信が返ってきた。
「いや、まだ」
……よかった。ふうっと大きく息をつく。都合よく考えちゃいけないんだろうけど、高宮ももしかしたら同じことを考えていたんじゃないかなんて思って、次の一文を打つ指に力がこもる。
「時間遅くなっちゃったんだけどさ、僕ん家に食べに来てくれないかな。メンチカツ」
メンチカツは口実。高宮に会いたいだけ。もしかして、本当に高宮が僕のメンチカツに妬いてくれているんなら、早く高宮のためだけのメンチカツを作りたい。
数秒後、すぐに返信が来た。
「行く」
高宮らしくない、切羽詰まったような二文字を見つめて、僕はスマホをぎゅっと握りしめた。
「SNS見て、我慢出来なくて、さ」
──嘘。思いもかけないことに、言葉を失った。早く高宮に会いたいとは思ったけれど、本当に来てくれるなんて。
「あの写真。メンチカツ作ったの、朝斗だよな」
「……分かってくれたんだ」
「分かったに決まってんだろ。いつも朝斗のメシ見てきたんだから」
高宮の口調はどこか怒ったみたいに強くて、だけど少し余裕がなさそうで。いつもと違う雰囲気に胸が騒がしくなった。リオさんのコメント──「最初に食えた人羨ましい」って気持ち、本物だって受け取ってもいいのかな。
「どうした佐倉君、お客さん?」
ホールから奥村さんがやって来た。
「あ、えと、友だちって言うか……」
僕が言い淀むと、高宮は言葉を奪うかのように横入りした。
「朝斗のメンチカツ食いに来たんですけど」
奥村さんは、「あっ」と言って申し訳なさそうに高宮に向かって言った。
「すみません。メンチカツプレート、今ラストオーダー出ちゃったんです」
「……そうですか」
「他のものでしたらご用意出来ますけど」
「いいです。また来ます」
高宮は奥村さんに向かって小さく頭を下げると、僕に視線を向けた。
「朝斗が頑張ってるとこ見れてよかった。じゃあな」
「うん、来てくれてありがと」
高宮が僕に向けた笑顔はどことなくさみしそうにも見えて、僕は去って行く高宮の背中に向けて、待ってと言いそうになって慌てて口を閉じた。
厨房に戻ってもうひと頑張りしないといけない。今はまだ、高宮の背中は追えない。
(本当は、一番食べてもらいたいのは高宮なんだよ)
心の中で、高宮に向けてそう呟いた。
「友だちには悪いことしちゃったね」
奥村さんが、厨房でラストオーダーの仕上げをする僕に声を掛けてくれた。
「あ、はい」
「彼、佐倉君のこと心配してたのかな。よっぽど佐倉君の作ったメンチカツ食べたかったんだろうね、僕のこと睨んでるみたいだったよ」
「いや、いやそんなことないですよ」
軽く返そうとしたけれど、声が上ずった。
「それならいいんだけどさ」
奥村さんが明るく笑って、付け加える。
「佐倉君のメンチカツ、あの友だちもリオも食べたがってるじゃん。よっ人気者」
「や、やめて下さいよ」
奥村さんの軽口に誤魔化し笑いを浮かべながら、頭の別の部分で考える。奥村さんを睨んだってどういうこと? 高宮、僕の何を気にしてくれてるの?
バイトを終えた帰り道、僕は何度もスマホを立ち上げては、メッセージがないか確認をしながら歩く。来てほしい人──高宮からの通知はない。
立ち止まってスマホを見つめた。また僕は高宮からの反応を待っているばかりになっているよな。好きという気持ちをいつまで隠しておける? いつまでただの友だちでいるつもりなんだ?
暗いスマホの画面をずっと見たって答えが見つかるわけじゃない。このまま待っているだけじゃなにも変わらない。
僕はもうただの陰キャじゃない。高宮のことを好きな気持ちが抑えきれない陰キャだ。
思いきってメッセージアプリを立ち上げ、高宮とのトーク画面をタップする。なんども深呼吸をして、打ち込んだ一文を送信した。
「高宮、もうご飯食べた?」
ドキドキが止まらない。食べちゃってたら、この口実はもう使えない。
しばらくして、返信が返ってきた。
「いや、まだ」
……よかった。ふうっと大きく息をつく。都合よく考えちゃいけないんだろうけど、高宮ももしかしたら同じことを考えていたんじゃないかなんて思って、次の一文を打つ指に力がこもる。
「時間遅くなっちゃったんだけどさ、僕ん家に食べに来てくれないかな。メンチカツ」
メンチカツは口実。高宮に会いたいだけ。もしかして、本当に高宮が僕のメンチカツに妬いてくれているんなら、早く高宮のためだけのメンチカツを作りたい。
数秒後、すぐに返信が来た。
「行く」
高宮らしくない、切羽詰まったような二文字を見つめて、僕はスマホをぎゅっと握りしめた。



