結局バイトが終わった後、結斗は純の家に行かず自分の家に帰った。
 一日ぶりに見た息子の顔に、母親は「まーだ、ぶすっとした顔してるし」と呆れた顔をした。
 夕飯も作らずに無言のまま自分の部屋に籠ると珍しく母親が料理している音が台所から聞こえてくる。
 結局、結斗が何もしなくても家事は回るし、自分がそばにいなくても純は楽しくやっている。楽しくないのは、寂しいのは自分だけだった。
 今日、ひとりで歌って分かったのはそれだけ。
(……寂しい)
 ベッドの上でごろごろしながら迷っていたが、純を無視することはできなかった。
 枕元のスマホを手にとって純にメッセージを送る。「本当」と「嘘」を書く。
 ――ごめん、今日行けない。お腹痛い。
 ゴメンって謝っているクマのスタンプを送った。返事はすぐに返ってきた。
 ――また、今日もあのラーメン食べたの? 油いっぱいの。
 猫の頭にクエスチョンマークが付いているスタンプが返ってきた。
 めったに送ってこない純からの二度目のスタンプ。純は結斗の変化を感じ取っているのだろうか。隠し事ができない。
 ――今日は、ふわとろオムライス。
 ――そう、お大事に。ねぇ、結斗。
 急にメッセージで名前を呼ばれてドキリとした。二人で会話しているのだから、相手は結斗しかいない。
 それなのに名前を呼ばれる。耳元で純の声が聞こえた気がした。
 甘く、優しい声。
 ――なに?
 ――寂しいな。
 ベッドの上に座って、スマホの画面を見た。
 何言ってんだよ。誰が? お前? ありえないだろ。
 結斗は昼間の部室と同じように、また泣きそうになった。お前は、俺と違うだろ。そう叫びたくなる。
 ――ばーか、嘘つけ。
 ――ホントだよ。
 純のメッセージが頭の中でずっとこだましている。こうやって、純が甘やかすから、いけないんだと思った。
 結斗が寂しい時に寂しいって言われる。こだまみたい。
 そうして、まだ一緒だから大丈夫だって安心してしまう。全然大丈夫じゃないのに。結斗は大丈夫だけど、純が駄目になる。
 ――なぁ、なんで俺のこと分かるんだよ。
 そう返していた。会話になっていない。寂しいって言ったのは、純だ。
 けれど、寂しいのは結斗だ。
 ――俺もお前も、そう変わらないってことじゃない?
 ――答えになってないし。もう寝る。
 ――はいはい。おやすみ。
 気づいたら、そのまま夕飯も食べずに寝ていた。
 多分、昨日、純から返事がこなければ眠れなかったと思う。いい加減、安定剤代りに純を使うのをやめたかった。