世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~

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 強靱な肉体で正面から殴りかかってくるサマエレアと、再生力や異形の肉体で搦め手をしかけてくるアバデア。互いの不得手を補い合い隙を潰す連携は、さすが長らく戦争をしてきただけのことはあると思わされる。

 この感じだと、天使達が邪魔になってなくても余裕が無いのは変わらなかったかもしれない。
 なんて仮定の思考は頭の片隅においやり、顔面を掠めた虫の鋏を視界から外さないままにドラゴンの王二人を睥睨する。

 これがアバデア相手でなかったなら、目の前にある鋏を切り飛ばすだけでもそれなりのダメージになるはずなんだけど。つい溜め息を漏らしたくなる。

 しかしそんな隙を作れば、眼前の鋏が変形し首を刈ろうとする上、サマエレアが瞬く間に肉薄してくるんだからいただけない。

 逆に言えば、それくらいの隙を見せてようやく向こうは攻められるっていうこと。私だけじゃなくて、向こうも決定打を打てない状況だ。
 一進一退と言えば聞こえば良いけど、膠着状態に入ってしまった。

 強いて言えば、隙を潰してくれる相方がいない分、私の方が少し不利ってところかな。

「いいの? もう貴方たちの部下はあまり残ってないみたいよ?」
「ぬぅ……」

 よし、隙有り――ってわけにはいかないか。逡巡を見せたアバデアを刈ろうと思っても、サマエレアがきっちり牽制してくる。今の間に踏み込んでたら、赤熱した竜王の爪に貫かれてただろう。

 あー、もう、めんどくさいなぁ。地上ごと吹き飛ばせるなら天使達に配慮しつつ、もっと強力な点の攻撃もできるんだけど。でもそれじゃあドラゴン達に味方してるのと変わらないからなぁ。

 とすると、グラシアンが来るのを待つのが最善か。もうずいぶん経ったし、そろそろ到着してもおかしくないはずなんだけど。
 彼が現れるだろうヴェルサイユの大迷宮をちらっと見るけど、それらしい気配はまだない。

「よそ見とは余裕だな」
「ご忠告どうも。ところで――」

 振り下ろされ私を引き裂きつつある巨大な爪。その隙間に浮かぶ翡翠の瞳を見やり、にやりと笑う。

「焦ったね?」

 この角度は最悪だ。サマエレアにとって、これまでずっと避けてきた位置だ。

 槍に力を込め、大きく振るう。さっきまでならアバデアに狙われただろうタイミングに選択肢。しかし今は、サマエレアの巨体が私を隠す。

「ぐおぉぉ……!」

 鮮血が舞った。爪が舞った。
 この戦いが始まって初めての有効打。慌てて身を引き、指が一つ無くなった腕を押さえるドラゴンの王の姿に、足下から熱が届けられたような気配を覚える。

 追撃は残念ながら、アバデアの触手に防がれた。これ以上状況を動かすのは私だけじゃ難しいらしい。

「お、来たね」

 なんて言ってたら、私じゃない存在がようやく到着した。サマエレアが焦っていた理由が現実のものになったんだ。

「すまない、遅くなった」
「いや、もう少しゆっくりしてても大丈夫だったよ」

 不意に気配を現し、私に並ぶよう飛んできたのは三対六枚の羽根を持つ天使だ。金髪青眼の貴公子然とした姿は、ヒーローは遅れてやってくるを地でいっているようで少しおかしい。

「グラシアンっ……!」
「時間切れ、か。仕方あるまい」


 アバデアが静かに、憎々しげに叫び、サマエレアは諦観の混じったような声を漏らす。これが戦いを諦めたものなら楽だったけど、どうもそうではなさそうだ。たぶん、妙に感情を見せるアバデアに関する話。

「サマエレア、悪いが、我はアレを殺す!」
「……好きにしろ」

 まったく、どんな因縁があるのやら。
 アバデアのこれまで以上に殺意の籠った触手がやってきたばかりのグラシアンだけを襲う。私も狙えただろうに、本当に彼しか眼中にないらしい。

 触手は逃げ場を塞ぐように広がり、彼を押し潰そうとする。横から切り飛ばすのは、例によってサマエレアが許さない。

 まあ、障壁を張るのが見えたから問題はないだろう。引き離されてしまうけど、むしろ好都合だ。これで一対一になるから、サマエレアだけに集中できる。

「行っちゃったね、相方さん」

 すぐ横を通り過ぎたアバデアの気配がどんどん離れていくのを感じながら、少しばかり会話を試みる。さっき切り飛ばした指の治療もしたいだろうし、のってくれるだろう。

「……アバデアの様子が気になるか」
「そういうこと」

 これだけ冷静で思慮深くみえるサマエレアが危険を承知で許したんだ。好機と引き換えにする価値くらいは感じるさ。

「私一人ならばとうとでもなるか。傲慢なやつめ。まあいい。あれは、優しい男なのだ。甘いだけのグラシアンと違ってな」

 グラシアンが甘いだけ、というのは同意だ。戦時中にあってなお、極力殺さないでくれた頼んできたくらいだし。

 ただ、敵を非難し相方を褒めるにしては、サマエレアの目に映る憐れみが濃すぎるように思える。

「それで、お優しい彼は、グラシアンの甘さの何に怒ってるのさ」
「貴様は、魔の種族に墜ちる、変じる条件を知っているか?」
「たぶんね」

 細かい条件まで詰めたわけじゃないけど、ウィンテやゼハマ達マッドサイエンティストの話や動きからだいたい予測していた。

 おそらくは、同種族や近しい種族を殺した数に関わる。山梨であったウィンテ絡みの戦争や中国での件を踏まえると、単純な数じゃなくてその殺しによって獲得したspが総獲得spの一定割合をこえたらってところだろう。

 ああ、なるほど。そういうことか。

「グラシアンのやつ、中途半端に生かしてたんだね」
「その通りだ。死んではいない。しかし生きているとも言い難い、ただ苦痛のみを感じる状態。そのような同胞達を、アバデアはただ見ていることができなかった」

 気がつけば、サマエレアの指の傷が塞がっていた。しかし爪は再生しておらず、ただ塞いだだけ。

 アバデアのような体質がなければ、肉体の再生は魔法で行うしかない。しかし魔法で消費する魔力はその事象に関する知識が不足しているほど大きくなる。

 要は効率が悪くなる。周囲の魂力に直接干渉できるようになっていても、今の彼みたいに魂力支配に難儀する状況じゃ分かりやすく保有魔力を消費するくらいだ。

 これが人間の体なら、多少の知識もあったかもしれない。しかしドラゴンとなると違う。助けたくても助けられない命は、少なくなかっただろう。

 ならばどうしたのか。

「アバデアは、苦しみ死を願う彼らの頼みを全て聞き入れた。その爪を、牙を、同胞の血で染めた」

 そして、魔竜となった、か。

「幸いなのは当時、魔に変ずる仕組みを知る旅人が迷宮内の集落に身を寄せていたことだろう。そうでなければ、今度は私の爪をアバデアの血で染めなければならなかったかもしれぬ」

 サマエレアは静かに目を伏せる。心底安堵した様子からして、ドラゴンになる以前から親しかったのかもしれない。

「勘違いはしてくれるな。ヤツは魔に変じたことを悔いてはいない。ただ、無意味に同胞を苦しめられたことが許せぬのだ」

 そしてそれは、サマエレアも同じ、かな。主語をアバデアにしている割には、彼の声は重く、瞳の翡翠色さえ燃えているようだ。

「なるほどね。それは、まあ、ご愁傷様としか言えない。悪いね」
「気にすることではない。だが、長話に付き合ってくれたことには感謝しよう。おかげで傷は塞がった」
「ふふ、良かったよ」

 その前提で話してたんだから。
 さて、それじゃあ第二ラウンドだ。少しくらいは楽しませておくれよ、ドラゴンの王様?