世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~

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 再び走り出し、二百四十一階層へ降りる。少しばかりした期待には応えてもらえない。しっかりばっちり屋内迷路で、空を飛んであっという間なんてことはさせてもらえないらしい。

 日の出までの残り時間は既に五時間を切っており、四時間も見えている。まさか二百四十階層台の方が小規模なんてことはないだろうし、開戦に間に合わせるのは難しい時間だ。

 しかしグラシアンに焦った様子はない。ユドラス君達を信じてるってことだろうか。
 たしかに、あの竜王達がいないなら時間稼ぎくらいはできると思う。それでも無力な人間を守りながらいつまで耐えられるのか。数でも質でも圧倒的に負けているっていうのに。

 まあ、私としてはグラシアンが良いなら問題ない。ウィンテと令奈も、王達がいないなら何の心配もいらないし。

 時々グラシアンの様子を伺いながら、ほとんど全速力で迷路を進む。
 足を止めたのは、景色の変わらない石の通路を進み続けて四時間余りが経った頃だ。

 かがり火に揺れる影を背後に見送って二百四十九階層に降りると、半日ぶりの日の光に出迎えられた。当然迷宮内に作られた擬似的な太陽だけど、それがあるってことはつまり、空がひらけてるってことだ。

「間もなく夜明けだと連絡があった」
「そう。ギリギリ間に合いそうだね。戦ってる間に開戦するだろうけど」

 背の低い草に覆われた地面を蹴り、青い空へ上がる。この階層はどうやら平原と森とで構成されているようで、高く上がるほどに深い緑が広がっていった。
 魔物の姿は見えない。空をいくものは勿論、地上に住むものも。最下層を目前にしてるのに妙な話だ。

 その理由も、階段に向かう途中で判明した。

「あれは、集落?」
「畑もあるな。ドラゴンが暮らすには小さすぎるようだが……」

 話してる間にもそれはどんどん近づいてくる。細部を視認できるようになる前に生き物、それもおそらく人らしい気配をいくつも捉えられた。
 そこはドラゴンでも人間でもなく、人と呼ばれる種族たちの集落だった。

 眼下にはエルフにドワーフ、小人、ドライアドと、いかにもファンタジーな見た目の人々が見える。人間は、少なくとも私が感じとれる範囲にはいない。ハーフっぽい人はいるから、昔はいたんだろう。何でこんな所にという意味でも、なんとも不思議な集落だ。

「このような場所に逃れていたのか……」

 なるほど。迫害でもされたのかね。天使の守る町には人間しかいなかったし、歴史の中で何かあったんだろうとは思ってたけど。

 そうして追いやられた人間でなくなった人たちを、ドラゴン達が保護した。あり得ない話じゃない。彼らの王が嫌っているのはあくまで人間であって、天使ですら憎悪の対象ではないようだし。

 なんというか、ドラゴン達は旧時代末期に多くいたっていう教義には緩い信者って印象だ。信仰心は持ってるけど、そこまでガチガチに考えてないタイプの人たち。
 今の人間達やその先祖は逆にお硬い派閥だったんだろう。

 まったく、歴史は繰り返すとはよく言ったものだ。いや、ドラゴンが人間を滅ぼそうとしているのはまた違う理由っぽいけど。

「当時の私にもっと力と信頼があったなら、彼らも守ってやれたんだがな」
「……そうかもね」

 それで幸せかは別として。
 彼らはどうも浅い階層や他の迷宮に自由に行く権利があるようで、見覚えのあったりなかったりする獣型の魔物を運ぶ姿も見られる。人間達とは違って生活の中に狩りもあるらしい。

 そんな彼らの表情は、とても活き活きしているように思える。少なくとも、自分の足で立って、歩いている人の顔だ。

 彼らと人間の違い。宣戦布告配信のタイトルにもなっていたそれが、ドラゴン達が人間を嫌う理由なんだろう。

 でもそうなると、二百三十階層であのドラゴン達をけしかけられた理由が唯一の心当たりの通りである可能性が高くなる。それでも私には関係ないとはいえ、筆舌し難い微妙な心持ちにはなってしまう。

 まあ、それはいいか。それよりだ。

「見つかっても面倒そうだし、もう少し高度を上げようか。最終階層の入り口はもうしばらく先だよ」

 彼らについては、あまり話さない方が平和だろう。一応は天使達に味方すると約束したんだし。

 二百五十階層、つまりは最終回層に到着したのは、それから間もなくだ。城の玄関のような広い部屋に入ると、正面に宗教画を思わせるレリーフが施された大きな城門が見えた。例に漏れずやたらと豪奢なあれが守護者の間とこことを隔てる扉で間違いない。

 そこに描かれているのは、人々と天使が獣の軍勢と相対する場面。中央上部で大きな翼を広げているのは、頭が七つもあるドラゴンだ。

「近づいてくるドラゴンの軍勢を確認したと連絡があった。間もなく夜明けだ」
「そう。ならさっさと首を持ち帰らないとね」

 でないとどれだけ死人が出るか。それが分かってて手を抜くのは人間味に欠けるし、出し惜しみはしないつもり。

「やつらも我々を侮るような愚は犯さないだろう。最後の守護者を倒した直後に出てくる可能性が高い。そうでなければ、コアのあるエリアにより適した環境を用意して待ち構えているかだ」

 守護者と連携がとれるなら一緒に出迎えてくれたんだろうけども。夜墨は特殊だからね。二度手間で面倒なんだけど、仕方ない。

「了解。油断はしないでおくよ」

 城門に見えるそれに両手をかけ、合図もしないままに押し開く。まだ開戦前とはいえ、帰路を考えればあまり時間はない。

 為すべきは、電光石火の決着。どうせ魔力的な消耗はほとんど無いに等しいんだ。直後のメインディッシュのことなんて、考えなくて良い。

「それじゃあ、最後の守護者様とご対面だ」

 もっとも、守護者と呼ぶにふさわしい存在かは知らないけども。