世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~

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 場所を戻して、会議室へ。ユドラス君はまだ少し悔しげ。一応納得したみたいだからいいけど。
 もう一人不満がありそうだったアドリアンの方は、よく分からない。警戒は緩んでるけど、完全になくなったわけでもないから。でも少なくとも積極的に反対するつもりはないらしい。

「では、今度こそ会議を始めよう。まずはこれを見てほしい」

 地図か。ぱっと見た感じ、旧時代と変わっているようには見えない。
 細かいところは私には分からないけど、やっぱりグラシアンが頑張ったんだね。

「このラインが我らの領域とドラゴンの領域の境だ。先日襲撃があったのはここだな」

 ふむふむ。線から一番近い場所だね。で、近しい距離なのが、もう二つと。

「そして、斥候たちが見つけてくれたドラゴンの王の拠点が、この場所だ」

 ふぅむ。領域の境界線がちょうど中間にある感じか。あの戦力差を思ったらずいぶん頑張ってる。
 距離があるっていうのはあるんだろうけど、ドラゴンの機動力からすると天使たちの努力の賜物と考えて良いだろうね。

「今回の作戦では、私とハロ殿で最前線になるこの町を出発し、やや迂回しながらドラゴンの王がいる大迷宮を目指すことになる。見つからないようにとなると、相応の時間が掛かるだろう。くわえて大迷宮の攻略も必要だ」

 つまり、最大戦力であるグラシアン不在の時間が長い。
 その期間を幹部たちですらあの程度でしかない戦力で防衛しつづけなければいけないわけだ。
 しかもだ。

「仮に道中見つからなかったとしても、大迷宮に侵入した時点でこちらの動きはバレる。そうすれば奴らは総攻撃に出るだろう。その間を、私抜きで凌いでもらう必要がある」

 まあ、これまで通りやってたらまず無理だろうね。グラシアンも分かってるだろう。じゃあ、どうするつもりなのか。

「可能であれば全ての町に十分な戦力を配置すべきであろう。しかし、彼我の戦力差は大きく、我々天使だけで全てを一様に守ることは難しい」

 天使たちは、みんな悔しげだ。あまり感情を表に出さないらしいアドリアンでさえも。
 それくらいには自覚してるってことだ。それに関しては、良いことだろう。正しい自己認識は大事だ。

「そこで、最前線になるこの三つに集中させる。この三カ所さえ抜かれなければ、後ろの町に被害が出ることはほとんど無いはずだ」

 仮にあの巨体が回り込もうとするなら、遠くからでも簡単に目視できると。
 そんな上手くいくかは分からないけど、そうするしかないのが現状なんだろう。どうも天使以外に戦力は無いみたいだし。

 せいぜい、連絡要員を置いておくことくらいか。一応、平天使はいくらか配置するみたいだし、時間稼ぎくらいはできる算段なのかな。

「三つに集中となると、二人一組になるのかしらぁ?」
「ああ。その通りだ」

 まあ、妥当かな。二人いれば、ドラゴンの幹部の実力を最大限高く想定しても、足止めくらいは十分可能だろうし。片割れがウィンテや令奈なら尚更。

「組み合わせは、まずユドラスと令奈殿、続いてルックとウィンテ殿、そしてエリーズとアドリアンだ。それぞれ天使が担当している町を防衛してほしい」

 つまり、兵士たちの指揮役と外部戦力ね。エリーズとアドリアンのどっちが前線担当なのかは知らないけど、まあそれはいいか。話の中で分からなければ確認しよう。

「ハロ殿、実際に手を合わせた上で、何かあるだろうか」
「ん? そうだね。これって前衛と後衛か、中衛同士の組み合わせでしょ? いいんじゃないかな、これで」

 地形だとか奥の手だとかまでは知らないから、判断のしようがないけども。

「では細かな兵力の配置に話を移そう。まず――」

 あ、知らない名前だらけ。あとはなんとなく聞いておくだけでいいや。私のすることは変わらないし。
 それはそれとして、二人に万が一がないようには考えておきたい。

 ざっと探った感じ、今二人が使える力は全力の半分ほど。出力で言えばユドラスたちと大差ない。
 それでも魂力支配だとか、なんか増えてるっぽい神器だとかの力を合わせたら圧倒的に強いとは思う。

 ただ、ドラゴン側の戦力が未知数だからなぁ。できることなら、もっと力を取り戻しておいてほしい。
 一割取り戻すだけでも、戦闘力の意味では数割以上回復するだろう。とすると、どうするのがいいかねぇ?

 いくつか案はあるし、あとで話し合わないと。

「――続いて兵站だ。これはエリーズから説明してくれ」

 あ、これは一応聞いておこうか。

「分かりましたぁ。兵站は、これまで通りこのパリを中心に行います。迷宮を使った転移で前線付近まで向かうのもいつも通りですねぇ。ただ、私含め兵站部隊の上位天使のほとんどが前線に出ることになりますからぁ、護衛戦力は最低限になりますぅ」

 兵站に割ける戦力もカツカツか。本当にギリギリの戦いだ。

「ですから、皆には極力協力してほしいですねぇ。可能なら、戦力の一部を護衛に回してもらえると助かりますけど、無理はさせないようにぃ」

 この辺については私がどうこうできることじゃないね。
 しかし、そうか。エリーズが兵站部隊のトップで、普段は基本的にパリに詰めていると。

 とするとパリがかなり手薄になるなぁ。例えば、こっそりこの辺の迷宮を攻略しておいたとすると、後ろからいっきに攻め落とされちゃう。
 気がついてるとは思うけど、一応聞いておこうか・

「一個質問。こちら側の領域にある迷宮はもう攻略済み?」
「そのことか。少なくとも、パリ周辺のものは全て把握している」

 ふぅん、ならいいか。

「当然だ! グラシアン様がその点を考慮しないはずがないだろう! 我々で全て! 攻略も済ませてある!」
「あら、そう。それは失礼したね」

 ボコボコにしてもグラシアン信者は変わらず、と。
 まあなんでもいいけど。

 しかし、そうだね。保険はあってもいいかもしれないね。

「では、各々準備を進めてくれ」

 あ、終わりか。
 さて、それじゃあ二人と相談だね。

 たぶんすぐに話はまとまるでしょう。