「えと、設定ってこれで良いんですかね?」

 ダーウィンティーさんの配信を開いてみると、ステータス画面と同じように空中に配信画面が投影された。
 映ってるのは、見覚えのあるどこかの大学の教室と白衣の真面目そうな女の子。

 それから虫の要素がちらほら見える異形が三匹。
 噂の魔蟲かな。

 ていうかダーウィンティーさん、女の子だったんだ。

『大丈夫です』
『いい感じ』
『これが魔蟲か。魔族ってやっぱ気持ち悪いのがデフォなのか?』

 この教室、けっこう綺麗だなー。
 陽の光っぽいのが画面の端に見えてるし、大きな窓のあるような所かな?

「えっと、それじゃあ改めまして、こんにちは皆さん。ダーウィンティーです」

『こんにちはー』
『こんにちは! ウィンテって呼んで良いですか?』
『こんにちは。なんで最初の二人がどっちも可愛いんだろう神か?』

 セミロングとボブの間くらいかな?
 両手を前で揃えて勢いよくお辞儀する姿が可愛らしい。

 百六十センチ位はありそうなのに、小動物的な可愛さというか。
 
 寝不足っぽい雰囲気がそこはかとなく漂ってるけど。
 ちゃんと寝てるのかな?

「あ、はい! ウィンテで大丈夫です!」
 
 けっこうエゲつない実験もしてたから、このタイプの可愛さはちょっと意外。

「それで、ですね、今回は半分はお試し配信でですね。あ、この子たちも紹介しておきます」

『不慣れ感が可愛い』
『護りたくなるな』
『ハロちゃんとはまた別方向で良い』

 私には出来ない方向性だなぁ。
 とりあえず、リスト登録だけしておこう。

「まず、この蜘蛛の子がアラネア。纏め役と私の助手をしてもらってます。一番器用なんです」

 巨大なジョロウグモの頭部から顔の無い女性の上半身が生えてるあたりは、とってもアラクネっぽい。
 けど、体中に無数の人の目と口があるのは、ちゃんと魔族だね。

「こっちの蠅の子がベルゼアです。お腹の口からは触手が出てくるんですよ!」

 ワームの口なだけ人の口よりはマシかなぁ?
 いや、うーん?

 羽が白い鳥の翼になってるのは冒涜的というか、ベルゼブブが元は熾天使って話に関連してるのかな?

「最後に、大きなムカデの子がオムカデア。一番の力持ちで火も吐けるんですよ!」

 うわ、なんか生理的に無理。
 本能の部分で嫌悪感が。

 全部の体節の間にある口にはのこぎり状の牙があって、龍の鱗でも削げそう。
 甲殻もなんかぬらぬらしてるし、脚は全部人の腕だし。

 これは、あれかな?
 妖怪のオオムカデが龍の天敵だからかな?

「そ、そんな事ないですよ! みんな可愛いじゃないですか!」

 あー、コメント欄見てなかったけど、やっぱり気持ち悪いって人の方が多いのね。
 正直、三体ともSAN値削られそうな見た目してると思う……。

「えと、どうして配信できるようになったかですか? それが、私にも分からなくて」

 んー、これかなっていうのはあるけど、どうだろ?
 気が付いたら出来るようになってたって話だけど。

 ちょっと聞いてみようかな。

 えっと、あれ、配信のコメントには思考入力できないんだ。
 スレッドも自分のところ以外できないのかな?

 まあいいや。
 ソフトウェアキーボード的なものは……出た出た。
 スマホ形式もあるみたいだけど、タイピングの方が早いからこれでいいや。

『こんにちは。称号って貰ってない?』

「あ! ハロさん! 良かったハロさん! 後でちょっとご相談が!」

 おっふ、また凄く前のめり。

 相談については、了解って返しとこう。

「ありがとうございます! あ、称号でしたね。えと、はい、ありますね」

 やっぱりあった。

『称号って何?』
『相変らずこの人はサラっと新情報を・・・』

 あれ、称号の話した事なかったっけ?

 そうだ、魔蟲の称号に触れただけで人間の方は何も言ってない。
 完全に別物って考えてる人もいるかー、なるほどねー。

「[魔蟲たちの主]だそうです」

 思ったより限定的。
 似たような称号、夜墨と契約した時には生えなかったけど、私が同じ龍だからかな?

 とりあえずコメントして詳細出してみて貰おう。

『その称号を触るか詳細を見るかしようとしてみて』

「はい。……魔蟲の支配能力の付与と配信機能解放。つまり、アラネア達と契約したことで配信できるようになった?」

 そういう事みたい。

 この称号、初めての人限定なのかな?
 マネする人出てきそうだけど。

 それで勝手に自滅されるのは良いけど、魔族が増えるのは鬱陶しいなぁ。
 いや、そうでもない?

 あ、配信解放スレが加速してる。
 私が何かしらの称号取得で機能解放したところまでは確信してるね。

「あ、配信機能の解放条件についての議論はハロさんの所にスレッドがあるので、そこを使うと良いですよ」

 そういえばこのスレッド、コメント数で管理者にsp入るみたいなんだよね。
 今のところ管理者が私しかいないから皆気づいてないみたいだけど。

 これ、もし誰でも管理者になれるんだったら同じ目的のスレッド乱立して凄い情報が錯綜しそう。
 面倒だから各スレッドの中心人物に管理権限投げようかと思ったけど、それはそれでヘイトがその人にいきそうだしなぁ。

 生存に関わる話だから、慎重に動かないと。

 あ、でも管理者にspが入る事だけは情報出しておかないと私にヘイト来るかな?
 ん-、出しとこっと。

『スレッドで思い出したんだけど、管理してるスレッドのコメント数に応じて日付が変わるタイミングでspが入るみたい』

「ええっ、そうなんですか!? でも、同じ目的のスレッドいくつも立てても邪魔ですよね。うーん、この話は、またにしましょう」

 ふーん?
 そういう感じ。

 あ、スレッドの管理権限についてのスレッドが立った。
 ダーウィンティさんの収入源が増えたね。

「それでですね、今日ちょっとやろうと思ってることがあるんですけど、その前にハロさん、先ほど言ってた相談なんですけど、今大丈夫ですか?」

 なんだろ?
 だいじょう、ぶっと。

「ありがとうございます! えっとですね、まず私の配信はハロさんが配信していない時間にしようかって思ってます。まだ二人しかいないのにリスナーさんを取り合っても仕方ないですから。あ、私が合わせるのでハロさんは気にせず配信してもらって大丈夫です!」

 まあ、リスナーを取り合う必要はないっていうのは同意。
 でも私ばかり合わせて貰うのもね。

『事前に言ってくれるなら全然私も合わせるよ』

「良いんですか? それじゃあ、お言葉に甘えます」

 ん-、これ、この子の想定通りって感じかな。
 まあそれ位は頭回る人の方が話早くて助かるけど。

 あんまり深く関わらないにしてもね。

「それとですね、ハロさんが迷宮での配信をメインにしておられるので、私は日常生活をメインにしようと思ってまして。その手の検証をしていく配信にしたら棲み分けられていいかなって」

 これ、相談の形をとってるけどリスナーに向けて言ってるんだ。
 小動物っぽいのは雰囲気だけかもね、この子。

 とりあえず返事っと。
 
『いんじゃない。ついでにそっち系のスレッドの管理権限あげるよ』

「ほえっ、あ、ホントに来た。あだっ!?」

 あ、やっぱり小動物は小動物かも。
 動揺して段差から落ちちゃってる。

 天然のドジっ子かぁ。
 いいね!

「えとその、ありがとうございます!」

 迷宮関連だけでも十分収入あるからね。

 あ、何も考えず管理権限渡せるのばらしちゃった。
 変なの来るだろうなぁ。

 まあ、気にしなくていいか。

「それじゃあ本題です! 私、ハロさんの所で色々議論してたお陰でけっこうspに余裕があるんです」

 この子、本当にいろんな議論に参加してたからなぁ。
 十数万spとか溜まってるんじゃない?

「生きていくのに十分な量を残しても、今のspでなれる種族がけっこうあるんですよ。それでですね、せっかくなので皆さんとなる種族を選んで、検証のようなことをしようかって思いまして」

 へぇ、思い切ったことする。
 手の内をある程度明かすことになっちゃうだろうに。

「今一覧を出しますね。あ、そこから投票できる機能があるみたいなので設定してみます」

 そんな機能が。
 私も今度使ってみようかな。

 それで、候補は……。

『妖鬼、吸血鬼、てんじゃ鬼、豪鬼……。なにこの鬼率』
『吸血鬼は微妙な所だけどな。あと天邪鬼であまのじゃくな』
『狐人か小人かなあ?』
『エルフとドワーフとウンディーネ。なんでサラマンダーかイフリートが無いんだ?』
『私と必要spが違う』
『個人の適性も関係してそうだな』
『知魔ってなんだ?』

 けっこう色々なれるんだね。
 
 知魔は魔族とは違うのかな?
 悪魔的な?

 どれも気になるところ。
 何がいいかなー?

「えっと、私はどれでもドンと来いなので、好きに投票しちゃってください。五分だけ待ちます」

 拘りがない、というよりはどれでも美味しい、かな? この子の場合。

 ん-、よし、もうダーウィンティーさんがこれだったら可愛いで決めちゃおう。
 従者との雰囲気的な相性も含めて。

「――五分です。一番多かったのは……」