誰も聞いてない空間に呟いた。

「うっ、」
 頭の中に振動があった。
 同時に、アラームの音。それは、今度は二回鳴って、俺が痛みを認識したら止まった。
 枕から頭を上げて、暗い寝室の天井と壁を見た。カーテンの向こうも夜で、音もない。
 でも、これを理解するのに、本当は闇も静けさも不要だ。
 再び零時。また、「明日」が来た。
 そう思った瞬間に、体が脱力した。

「昨日は、ごめん」
 テーブルの向こうで尾崎が言う。
 昨日と同じ、五時過ぎ。今日は正しい比率で氷の入った麦茶のグラスが置かれてる。
 俺は何も返さなかった。引きずりたくはなかったし、だからって「いいよ」で済ますのも何かが違う気がして。
 尾崎はグラスに触らず、続けた。
「まだ聞こえるの? ……零時の、アラーム」
 俺は息を吐いた。これには答えるしかない。
「……聞こえる」
「……そっか」
 尾崎はそう言って、俺を見る。
 目が合った瞬間、何か嫌なものを抉られるような感覚があった。
「……やっぱり――」
「まだ……って言うか、『許せる』気なんてそもそも起きると思ってないから」