なんだよ。いい加減に、しろ。
 慎重に、手を伸ばす。
 唾を飲み込み、また息をする。伸ばした手の先は無様に宙に浮いている。
 息を飲み込んでスマホを掴んで一気に手元に引き寄せる。
 電源を入れる必要はない。俺は圧迫させる鼓動を無視して、グレーの画面を見た。
 ゆっくり、ロックを解除しようと、指を触れようとした時。
 画面の発光。チャットアプリの通知が切り傷のようにそこを走った。
「っ……!」
 俺は音がする勢いで首を振った。
 静寂。空欄。麻痺。
 空いたテーブルの表面を睨んで、必死に感覚を取り返そうとする。
 大丈夫だ。見えるし、温度も感じる。心肺は確かに動いていて、こうして意識も、言葉を、意思を、形にしている。俺は、まだ……
 でも。
 俺は細く息を吐いて顔を上げて、尾崎を睨んだ。目が合った向こうも、スマホを手に、眉をひそめてる。
「……さっき送ったって言っただろ」
 そう言った俺に何も返さず、尾崎はこっちを見続けた。
「……ごめん。やっぱり帰る。明日また来る」
 数分後、俺は一人になったリビングで天井を見ていた。笑えるくらい、感情が落ち着いていくのがわかる。
「……明日、な」