心臓が不規則になる。ドキ、というほどでもない、弱々しい力加減で。
「……うん」
 淡々と認めると、「そっか」という確認だけが返ってきた。
「じゃあ、戻るのもまだ無理そう?」
「……そうだな」
 尾崎はまた「そっか」と言った。
「でも、言っても一か月だし。……いや、簡単に言うなって話だよね」
 一か月。それが短いのか長いのかはわからないが、「不十分」であることは間違いない。
 もう十月が終わる。今は高一の二学期だ。
 そして俺はここ一か月ずっと、学校に行ってない。行けてない。
 静かになったテーブルでしばらく動かず。
「……じゃあ、あたしもう帰っ――」
「渡したい物あるんじゃないのか」
 俺が割り込むと、尾崎は視線を泳がせ、足元の通学鞄を漁りだした。
「……これ、なんだけど」
 そう言って尾崎がテーブルに置いたのは一本のUSBだった。
 胸部を冷えた感触に襲われた。息をして、なんとか温度を元に戻そうとする。
「……何なんだ」
「文化祭のPR動画。完成してる」
 また、冷えた感触。でも今度の理由は違う。
「……は?」
 制御するのも意味なく、暴力的な音だった。