零時のアラームが止む時

 新しい一日が零時に来る事実そのものは理解済みだったと思う。だけど体感があまりに鮮烈で。安易に踏んではいけない境界を越えてしまっていたような、不穏なものを感じた。
 この時の俺は、怖がっていたように見えていたらしい。
 ――大丈夫だよ。新しい一日が始まった、それだけだ。
 兄はそう言うと自分の寝間着の裾を掴んだ。その布地は、すでにだいぶ伸びていた。
 ――……だから、もう、一日……
「…っ、」
 心臓が緊縛されたような感覚があって、俺は意識して呼吸をした。
 誰もいない空間に向けて呟く。
「また、もう一日、なのか?」
 直後、体の内部を冷たい感触に襲われた。
 その理由を認めたくない気がして、俺はもう一度、手の中の目覚まし時計を見た。
 これの電池を抜き取ったのは、間違っても音が鳴るのを防ぐためだった。
 ……いや。正確には、これの発する音ではないのだと、そう確かめるためだ。
 幻聴のアラームはこの目覚まし時計の音だ。兄の一日の始まりの合図であったろう音を、一日が終わり、また一日が始まったと何より強烈に認識する瞬間に、俺は繰り返し自分に聞かせていた。
 ……それこそ、兄自身みたいに。