今度は俺が安堵して、鈍くて重いものを体内に感じた。
 食欲はなく、俺は牛乳を一杯飲むだけして再び階段を上り、寝室が集まる廊下を辿った。
 数は四つ。父親用、母親用、そして……
 三番目に並ぶ、閉じたドアの前で立ち止まった。息をして、中に入る。
 寝具のないベッドと、隣に学習机。その境目を記すように机の端に置かれた黒い針の目覚まし時計。壁のハンガーに、俺と同じ高校の制服が一式。そして日差しの死角となる壁に、天井まである本棚。
 いない部屋の主に心の中で断りを入れて、本棚の真ん中あたり、書籍でぎっしりと埋まった棚の中の唯一の隙間を探して手を伸ばす。そしてその隙間の隣にある文庫本を取る。
 作家名順に並べられたこの棚の、この一冊の隣からは別の著者名になっている。
 この作家はこの一冊で、全部。……どれも、面白かったのに。
 その推測によって空いた気がした精神の穴に気づかないふりをして、俺はその本を持って自分の部屋に戻り、机前の椅子に着いた。
 机の角に目をやる。そこには自分のスマホが伏せられた状態で置かれている。
 本を開く前に、手探りで電源だけ、入れた。