その尾崎が、テーブルの奥で口を開く。
「訊いてもいい?」
「何」
「ここ一か月、何して過ごしてた?」
「本を読んでる」
「ケント、本読む人だったんだ」
「俺のじゃない。……兄貴、が集めたものだ」
尾崎が急に辺りを見回した。
「……お兄さん?」
「いないよ、うちには。……もう、ずっと」
そう言って、俺はドアの奥、階段のほうに顔を向けた。また正面を向くと、尾崎がさっきより真剣な表情になっていた。
俺はそれを気遣うことなく、話を続けた。もう、この際だ。
「俺が中一の時、夏休み中に急に家を出て、以来、帰ってない。それだけ」
当時、俺たちが今通う高校の三年生だった兄は、夏休み最後の月曜日にふらっと一人で外に出た。両親はもう仕事に行っていて、留守番みたく自分の部屋にいた俺だけが、家のドアが挨拶もなく閉まる音を聞き、駆け下りた玄関で兄の靴が消えているのを見た。
兄がいた俺の隣室は以来、無人のままだ。
「見つかってないし連絡も取れないし出てった理由もわからない。私物も何一つ持っていってないから部屋もそのままだ。俺も親も、心配とか通り越して一周して普段通りにするしかできなくなってる」
「訊いてもいい?」
「何」
「ここ一か月、何して過ごしてた?」
「本を読んでる」
「ケント、本読む人だったんだ」
「俺のじゃない。……兄貴、が集めたものだ」
尾崎が急に辺りを見回した。
「……お兄さん?」
「いないよ、うちには。……もう、ずっと」
そう言って、俺はドアの奥、階段のほうに顔を向けた。また正面を向くと、尾崎がさっきより真剣な表情になっていた。
俺はそれを気遣うことなく、話を続けた。もう、この際だ。
「俺が中一の時、夏休み中に急に家を出て、以来、帰ってない。それだけ」
当時、俺たちが今通う高校の三年生だった兄は、夏休み最後の月曜日にふらっと一人で外に出た。両親はもう仕事に行っていて、留守番みたく自分の部屋にいた俺だけが、家のドアが挨拶もなく閉まる音を聞き、駆け下りた玄関で兄の靴が消えているのを見た。
兄がいた俺の隣室は以来、無人のままだ。
「見つかってないし連絡も取れないし出てった理由もわからない。私物も何一つ持っていってないから部屋もそのままだ。俺も親も、心配とか通り越して一周して普段通りにするしかできなくなってる」

