俺は冷たくそう言って、尾崎が昨日スマホに走らせたメッセージを思い返した。
「完成動画。……教頭には、見せてるのか」
「見せてない」
 尾崎は当然かのように返した。
「見せろって言われてないし。このまま訊かれなかったら公開しなくていいんじゃないとも思ってる。どうせ気づかないでしょうし」
 その返答に対して、俺は何も言わなかった。
 何しろ、反論ができない。納得と同意しかない。俺たちが所属する高校の教頭先生は、確かにそういう人間なのだ。

 服装はくたびれた土色のスーツ、縦に長い顔は凹凸が目立って血色が悪い中年の男、それが教頭だ。水洗いする前の、全体に土がまぶされたジャガイモみたいな人間。
 そして、奴は「やけに見かける」というのが、高校に入って俺が受けた印象だった。
 教室近辺、靴箱の周り、廊下の端、生徒会室の前、運動部活動中のグラウンド、文化部が集まる別棟、職員室、図書館、講堂……
 そして、見かける時の奴は必ずと言っていいほどその場にいる誰か――教員であれ生徒であれ――に指示か提案をしていた。