いつものアラームが鳴った。
 頭の中でだけ、覚醒する。目を開けないようにして、手の感覚を鈍らせて、息をした。
 真夜中。午前零時。
 また、明日……否、今日、になった。
 意識して、もう一度寝つこうとする。
 俺が存在を認めたことに満足したのか、アラームは一度鳴ったきり、止まった。

 陽の光が差す「今日」になって、今度こそ目を開けて布団から這い出た。
 カーテンの隙間から陽が差す。外は気持ちのいい十月の秋晴れなんだろうが、それはまるでここから俺を引き出そうとする嫌がらせのように思える。
 今は何時だろう。だいぶ早いと思う。
 ワードローブを開けてハンガーの群れをかき分けると、見慣れているべき制服のセットが視界に侵入した。ポケットに難関私立の校章が刺?されたブレザーは不格好に揺れ、四月頃の硬さを取り戻してるように見える。
 俺はその化学繊維の塊を横に押しやって、適当に私服を見繕った。
 階段を下りてキッチン兼リビングに入ると、朝食を終えた両親の姿があった。二人ともスーツ姿で、母親のほうはスマートフォンで文字を打つ操作をしている。
 両親は俺の存在を認識すると一瞬の驚きの後、安堵の表情を浮かべた。直後、母親は慌てた様子でスマホを伏せた。
 俺は七時を指す壁の時計を一瞥して、使用済みの食器が並ぶテーブルに近づいた。
「……片付けとく。時間はあるし」
 両親はわかりやすく戸惑った様子だったけど、でも俺の提案に異議は唱えなかった。
 空いた時間をどう使おうか迷ったのだろう。父親がテレビのリモコンに手を伸ばそうとして「やめなさい」と母親に怒られた。
 気まずそうに俺を見た両親はそのあと、足早に廊下に出ていった。
 十数分後、流しの流水音に混ざって玄関のドアが開き、閉まる音がした。