テルメ山、またの名はテルメ湯山(ゆざん)

名前のとおり、この山は源泉の宝庫と言われ、山のふもとには上級種族御用達の温泉施設があるくらいだ。

「さて、ここのはずだが……」

『ギギギ……』

俺が辿り着いた目的地には、無数のアノマロカリスが唸りうごめいていた。

「話には聞いていたが、まさかここまで住み着いてるなんてな」

両拳に術式を展開すれば、それに反応したアノマロカリスは殺気をこちらに向けてきた。

『ギギギ』
「さて、多少の運動にはなってくれよ!」

俺が走り出した瞬間、アノマロカリスも俺に目がけて襲い掛かってきた。

「はぁぁ!」
『ギギィ!?』

その内の一体に拳を打ち込み、瞬時に拳の術式を発動。
術式の発動により、拳を打ち込まれたアノマロカリスの体は吹き飛んでいき、岩壁に当たって動かなくなった。

「次だ!」

俺は次々と襲い掛かってくるアノマロカリスを殴り飛ばしていく。
しかし、その数は一向に減る様子がなく、むしろ増えている。

「この数、修行時代を思い出させるな!」

『ギギィ!』
「っ!?」

背後から飛び掛かってきた一体に反応が遅れてしまい、俺の体にアノマロカリスの前部付属肢が巻き付いた。

「つ……俺をこのまま離さず、仲間に食わせるつもりか」

俺の状態を見た他のアノマロカリスが好機だと言わんばかりに襲いかかってきた。

「生憎、俺はそう簡単には喰わせない」

俺は深呼吸し、身体全体に魔力を巡らせた瞬間、術式を展開した。

『ギギ!?』

術式がアノマロカリスに反応し、俺を捕らえたアノマロカリスが飛ばされた。

肢から解放された俺はそのまま流れるように、襲いかかってきた他のアノマロカリス達を上手くかわし、次々とアノマロカリスに拳を入れていく。

「修行の時はこんなに軽々動けなかったが、今こうして動けるのは、やはり日頃の修行が大事ってことだな」

いくら七戦士になったとはいえ、俺は修行を疎かにはしなかった。

まぁ、師匠の言いつけもあるのだが……ほかの事に興味が無かったと言えばいいのだろう。
そんな俺が、アオと出会って一目惚れし番になり、今こうして家を建てる為に動いている。

「はぁ……はぁ……番を持ったら変わると聞いたが、ここまでとは……」

そう言って最後のアノマロカリスに打ち込んだ拳をゆっくりと戻すと、アノマロカリスは地面に倒れ、辺りを見渡すとアノマロカリスの死骸だらけだった。

「朝まで掛かるつもりだったが、意外に早く終わったな。さっさと魔石を取って土地師の所に戻るか」

俺はアノマロカリスの死骸を1箇所に集めて、一匹ずつ目の中にある魔石を取り出した。

「これは中々大きいな……二つずつあるから、半分売れば金にはなるな」

アノマロカリスから取れる魔石、飛翔(ひしょう)石は、この世界の生活において欠かせない魔石だ。
魔石の力自体は空中を飛ぶというシンプルな力だが、この魔石を使って作られた海馬(かいば)がこの世界の住人の乗り物になっている。

「年の為、二つほど持っておくか」

腰のポーチに飛翔石を入れ、残りの石を収納術で持ち運ぶことにした。

「さて、帰るか」

俺はそのまま土地師の店へと向かった。

店に着くないなや、俺は条件だった魔石を土地師の目の前に置いた。

「す、凄い……しかも傷一つ付いていない」
「どうだ?」

この大量な魔石を目の前にして、土地師は息を呑んだ。

「分かりました、こちらの土地を半額の五千seaになります」

俺はお金が入った袋を土地師の目の前に置いて、契約書にサインをした。

「では、後日からこちらの土地での建築が可能になります。必要ないかもしれませんが、もし何かあればご連絡ください。またのご利用お待ちしております」

これでとりあえずは土地を手に入れることは出来た。
あとは家を建てるだけなのだが、今日は久しぶりに魔力の消費が大きかった。
それに、家を建てる時はアオも一緒にいた方がいい。

「しかし、温泉付きの家か……帰ってから、温泉の引き方を調べてみるか」

温泉付きの家と聞けばアオは喜んでくれるだろうか。
彼女が喜ぶ姿を思いふけながら、神殿へと向かった。