『――……は? 何言ってんだよ』
『だから、あと三ヶ月で死ぬの。私』
『え、ちょっと待ってよ。いや、いやいや、どういうこと?』
死ぬって、そんなはずないだろ。だって万が一本当だとしても、そんな笑顔で言えるようなことじゃないし、あり得ない。嘘に決まってる。
だけど、吉川が相手を困らせるような嘘をつくだろうか。しかも病院という場所で、そんな嘘を……。
『なんて、急に言われても困るよね。でも本当のことだから』
そう言って、また笑った。
『昨日の夜自宅で倒れちゃって、気づいた時には色々検査されて て、それで――』
何も理解できていないし頭も混乱しているのに、吉川は自分の身に起きたことを淡々と俺に語った。
去年の冬くらいから体調の悪くなる日が増えたけど、家族に心配かけたくなくて誰にも言わなかった。その結果、気づかないうちに病気が進行してしまっていたらしい。
心配をかけたくなくて無理をしてしまうのは、吉川らしいと思った。
だけど、もし本当にあと三ヶ月で死んでしまうのだとしたら、そんな理由で済まされる問題じゃない。
『あ、あのさ……その、本当に、本当のことなの?』
『本当だよ。まさか自分が余命宣告されるなんて、想像してなかったよ』
あたり前だ。まだ高校二年生で、昨日まで普通に学校に通っていて、元気にしていたのに。
『でも、だとしたら、なんで……』
――なんでそんなふうに笑っていられるんだよ。
出かかった言葉を、吞み込んだ。
本当はまだ受け入れられていなくて、だからこそいつも通り笑顔でいようと頑張っているのかもしれない。というか、そうに決まってる。
『あのさ、渉くん。お願いがあるんだけど』
『何? なんでも言って』
反射的にそう言って、前のめりになった。かける言葉は見つからないけど、俺にできることがあるならなんでもやりたい。
『私さ、体育祭の手伝いするって手をあげちゃったけど、こんなことになっちゃったから。だから、私の代わりに渉くん、実行委員の手伝いしてあげてほしいんだ』
『そんなこと……もちろん手伝うよ。手伝うけど、でも……』
『あとね、このことは誰にも言わないでほしいんだ。みんなに心配かけちゃうし』
そりゃ心配するし、みんな大泣きするに決まっている。
『言わないよ。でもなんで、どうして俺には話してくれたんだよ』
少しだけ考えたあと、吉川はまた空を見上げて言った。
『それは、渉くんだからだよ』
俺だからというのは、俺がどうでもいい存在だから別に言っても支障はないと思ったのか。それとも、口が堅そうだと思われているのか。
どういう意味なのか分からないけど、これ以上聞くことはできなかった。つらいであろう吉川に、余計なことを言って困らせたくないから。
『おじいちゃんのところに戻らなくていいの?』
『あ、あぁ、そうか。そうだな』
吉川に言われ、俺は立ち上がった。情けないことに、少しホッとしている自分がいる。
『あの、じゃあ、またな』
『うん。じゃあね』
このまま吉川の隣にいても、何を言えばいいのか分からない。なんて励ましてやればいいのか何も浮かばない。
だから、それ 以上何も言わず、病棟に戻った。
『だから、あと三ヶ月で死ぬの。私』
『え、ちょっと待ってよ。いや、いやいや、どういうこと?』
死ぬって、そんなはずないだろ。だって万が一本当だとしても、そんな笑顔で言えるようなことじゃないし、あり得ない。嘘に決まってる。
だけど、吉川が相手を困らせるような嘘をつくだろうか。しかも病院という場所で、そんな嘘を……。
『なんて、急に言われても困るよね。でも本当のことだから』
そう言って、また笑った。
『昨日の夜自宅で倒れちゃって、気づいた時には色々検査されて て、それで――』
何も理解できていないし頭も混乱しているのに、吉川は自分の身に起きたことを淡々と俺に語った。
去年の冬くらいから体調の悪くなる日が増えたけど、家族に心配かけたくなくて誰にも言わなかった。その結果、気づかないうちに病気が進行してしまっていたらしい。
心配をかけたくなくて無理をしてしまうのは、吉川らしいと思った。
だけど、もし本当にあと三ヶ月で死んでしまうのだとしたら、そんな理由で済まされる問題じゃない。
『あ、あのさ……その、本当に、本当のことなの?』
『本当だよ。まさか自分が余命宣告されるなんて、想像してなかったよ』
あたり前だ。まだ高校二年生で、昨日まで普通に学校に通っていて、元気にしていたのに。
『でも、だとしたら、なんで……』
――なんでそんなふうに笑っていられるんだよ。
出かかった言葉を、吞み込んだ。
本当はまだ受け入れられていなくて、だからこそいつも通り笑顔でいようと頑張っているのかもしれない。というか、そうに決まってる。
『あのさ、渉くん。お願いがあるんだけど』
『何? なんでも言って』
反射的にそう言って、前のめりになった。かける言葉は見つからないけど、俺にできることがあるならなんでもやりたい。
『私さ、体育祭の手伝いするって手をあげちゃったけど、こんなことになっちゃったから。だから、私の代わりに渉くん、実行委員の手伝いしてあげてほしいんだ』
『そんなこと……もちろん手伝うよ。手伝うけど、でも……』
『あとね、このことは誰にも言わないでほしいんだ。みんなに心配かけちゃうし』
そりゃ心配するし、みんな大泣きするに決まっている。
『言わないよ。でもなんで、どうして俺には話してくれたんだよ』
少しだけ考えたあと、吉川はまた空を見上げて言った。
『それは、渉くんだからだよ』
俺だからというのは、俺がどうでもいい存在だから別に言っても支障はないと思ったのか。それとも、口が堅そうだと思われているのか。
どういう意味なのか分からないけど、これ以上聞くことはできなかった。つらいであろう吉川に、余計なことを言って困らせたくないから。
『おじいちゃんのところに戻らなくていいの?』
『あ、あぁ、そうか。そうだな』
吉川に言われ、俺は立ち上がった。情けないことに、少しホッとしている自分がいる。
『あの、じゃあ、またな』
『うん。じゃあね』
このまま吉川の隣にいても、何を言えばいいのか分からない。なんて励ましてやればいいのか何も浮かばない。
だから、それ 以上何も言わず、病棟に戻った。



