病棟の中に戻った時には、ポケットに入れていたお茶がすっかり冷たくなっていた。俺はもうひとつ新しいお茶を買って、そっちをおじいちゃんに渡した。

ずいぶん長く庭にいたような気がしていたけど、遅かったなと言われることもなく、おじいちゃんはテレビを見ていた。空になったどら焼きの袋がふたつ、小さなゴミ箱の中に入っている。

「じいちゃん、あんまり無茶しないで、早く治してよ」

「分かってるよ。じいちゃん骨は強いから大丈夫だ」

いや、転んで骨折してるじゃん。

「あのさ、ちょっと庭に行ってみる?」

「ん? いや、テレビ見たいからいい」

やっぱり吉川のことが気になるから、様子を見に行く口実がほしかったのだけど、 あっさり断られた……。

結局おじいちゃんは、ずっとテレビにくぎづけだった。本当にマイペースだ。

だから俺は、しばらく一緒にテレビを見てから「また来るね」とおじいちゃんに伝え、病室を出た。

途端に、自分の顔からスッと笑みを消す。

おじいちゃんに余計な心配をかけないよう自然に振る舞っていたけど、さっきからずっと、激しい心臓の鼓動が治まらない。

『私、あと三ヶ月で死ぬんだって』

吉川の声が、頭から離れない。

まだ庭にいるかもしれないと思ったけど、ドアの前まで来て立ち止まってしまった。

いたとして、どういう言葉をかければいいのか分からない。

結局 、庭園へは行かずに病院をあとにした―― 。