この日の日記を何度も読み返し、気づいた時には一時間以上経っていた。

ようやく日記を閉じた俺はスマホを手に取り、日記の写真と共にメッセージを咲に送った。

《何回読んでも分からないし、気になるんだけど》

もう一度考えてみたけど、やっぱり分からない。

いつも見ていた吉川は、自然体じゃなかった?

吉川が色々失敗? 何を?

咲がいたらあんなことにはなっていないということは、咲の前ではできなかったことをしたのか?

いくら考えても、状況がまったく浮かばない。

腕を組み、ただじっと閉じられた薄紫色のノートを見つめていると、咲から返信がきた。

《何コレ。どういう意味?》

それを聞きたくて送ったんだけどな。

《分かんないけど、詳しく知りたいから吉川の通ってた小学校を教えてほしい》

両親が離婚をしたのは、ふたりが小学三年生の時だったと前に咲 から聞いた。その後、咲は母親と共に引っ越してしまったのだが、三年生までは咲も同じ学校に通っていたことになる。

《聞いてどうすんの? 学校が分かったって同窓会はもう終わってんだから、意味ないじゃん》

《そうだけど、このまま何もしないわけにはいかないし、やっぱ気になるから》

俺だって聞いてどうするんだとは思うけど、とりあえず小学校に行ってみれば何か(ひらめ)くかもしれないし。

そう思って咲に聞いたのだが、それから返信は途絶えた。やっぱりまだ、喧嘩した時のことを怒っているのだろうか……。

咲が抱く劣等感は、俺のそれと似ているんだ。

相手が双子だというぶん、咲のほうがもっと悩んでいたのだと思う。しかも吉川は死んでしまったのだから、咲の中にあるその気持ちを払拭することは、一生できないかもしれない。

そんなの、つらすぎるだろ。

俺なんかより咲のほうがずっとつらいのに、『お前だけがしんどいと思うなよ』なんて言ってしまったことを、もう一度ちゃんと謝ろう。

いつも通り、母親とふたりで夕食を食べてから部屋に戻ってスマホを見ると、咲からメッセージが届いていた。

《これ、花の同級生のアカウント。同窓会って多分、これのことだよね》

スクショしたSNSの写真が送られてきたが、その写真のコメントには〝〇〇小学校四年二組同窓会〟と書かれてある。

写真を拡大してみると、大勢いる人の中に吉川の姿をすぐに見つけた。

見慣れた長い髪を珍しく高い位置でお団子にしていたけど、そこに写っている笑顔は吉川そのものだ。

《もしかして、同級生のアカウントを探してくれたの?》

《私、記憶力いいから。同じ小学校だった子の名前何人か覚えてたから、色々探してみたら見つけた》

意味ないとか言っていたけど、本当は咲も気になっていたのかもしれない。

《ありがとう》

《別に渉のためにやったんじゃない》

予想通りの返信がきて、俺はスマホを見ながらひとりでクスっと笑った。

《そうくると思ったけど、正直どうしたらいいのか分かんなかったから、本当に助かった。あと、この前のこともごめん。君のほうがずっとつらいのに、俺も感情的になっちゃって》

《もういいよ。しつこい。それより同窓会のこと聞けるか、この子にDM送ってみる》

《よろしくお願いします。もし会って話が聞けそうならそうしたい。もちろん咲も一緒に》

《なんで私も》

《君だって気になるでしょ? 吉川の日記の意味》

《まぁ。とりあえずなんかあったら連絡する》

咲のメッセージはいつもあっさりしているなと思いながら、スマホを机の上に置いた。

吉川とはこういう個人的なやり取りをしたことがなかったのに、会ったばかりの咲とメッセージを送り合っている現状が、なんだか不思議だ。

吉川が俺に日記を送ってこなかったら、きっと咲とは会うこともなかっただろうに。

ベッドに寝転び、俺はまた同窓会の日記を読み返した。楽しんでいる吉川は浮かぶけど、それ以外のことはやっぱりよく分からない。

だけどこの日の吉川の様子を知ることができたら、俺に日記を託した意味に、少し近づけるような気がした。