……とはいえ、クレーンゲームでぬいぐるみを取ったところで、咲の言うように意味はないのかもしれない。
それでもひとりでショッピングセンターにやって来た俺は、四階のゲームコーナーの前に立ち、スマホを握った。目の前にはずらりとクレーンゲームが並んでいる。
勝手に俺のことを決めつけて勝手にブチ切れた のに、こっちから連絡するのは正直癪だけど、とりあえずひと言だけ送っておくか。
《これから挑戦する》
撮っておいた先ほどの日記の写真と共に、咲にメッセージを送った。
「よし……」
あれこれ考えたってしかたがない。そう割り切って、俺はクレーンゲームを見て回る。
やると決めたけど、吉川の言うかわいいウサギのぬいぐるみとは、どんなやつなのだろう。
ウサギといってピンとくるキャラクターはいるけど、それが正解だとは限らないし。それに、吉川がクレーンゲームをしてから七ヶ月ほど経っているんだから、さすがに中身も変わっているはずだ。
同じものはもうないと考えて間違いないので、とりあえずウサギのぬいぐるみがあればそれに挑戦しようと思った矢先、スマホが鳴った。
画面を見た瞬間「えっ……」と声が漏れたのは、咲からのメッセージだったからだ。
絶対に返ってこないだろうと思っていたので驚いたが、もう怒りは治まったということか。
そう思いながらメッセージを確認したが、出てきた写真を見て、俺はさらに目を丸くした。
「は? なんだこれ」
そこにあったのは、奇妙なぬいぐるみの写真だった。
《どうせどんなぬいぐるみか分かんないんでしょ。これが花の言うかわいいウサギのぬいぐるみだよ》
「マジかよ、これが……?」
大きく開けた口からギザギザの歯が見えていて、すごく目つきの悪いウサギだ。それなのに、フリルのついた白いヘアバンドをつけている。なんていうか……。
《今、これのどこがかわいいんだって思ったでしょ》
俺の心の中を読んだかのように、続けて咲からメッセージが届いた。
《別にそんなこと思ってない。独特だなとは思ったけど、かわいくないとかじゃないし》
《本当のこと言えばいいのに。別に花が聞いているわけでもないんだから》
そう言われると、なんだか寂しいじゃないか。天国で聞いているかもしれないから怒られるかもね、とか言われたほうがまだいい。咲がそんなことを言うとは思えないが。
《花はかわいいものが好きだったけど、これをかわいいって言った時はさすがに引いた》
そういえば、吉川のリュックに猫のキーホルダーがついていたけど、それは確かにどう見てもかわいい猫だったな。このウサギとは正反対というか……。
でも不思議なことに、もしここに吉川がいて『 かわいい』と言って笑ったら、多分俺にもこのぬいぐるみがかわいく見えるのだろうなと思う。吉川の魔法というやつだ。
《情報ありがとう。というか、この前はごめん。ひとまずぬいぐるみを探してみる》
この勢いでさらっと謝ると、なんだか少しスッキリした。よく考えたら喧嘩する必要なんてなかったし、咲がもういいと言うなら俺ひとりで続ければいいだけの話だ。どうなったかは、あとで報告しよう。
親子や若者が大勢いて賑わう中、一台ずつ確認をしながら歩いた。
人気アニメのキャラクターとかは定番で置いてあるだろうけど、基本クレーンゲームの中は入れ替えるものだから、期待はしていない。
多分ないだろうな……と思った矢先、そいつが俺の視界に入った。
「嘘だろ、いるじゃん」
台の前に立った俺は、中にいるそいつと写真を見比べた。
間違いない、吉川が取ったぬいぐるみだ。写真より、生で見たほうがずっと奇妙な顔をしている。
「よし、やるか」
わり とクレーンゲームは得意なほうだから、ぬいぐるみの形状も取りやすそうだし余裕だろう。そう思って挑んだのだが―― 。
硝子越しにいる目つきの悪いウサギが、『取れるもんなら取ってみろ』と言っているかのように、俺を見ている。舌打ちをした俺は、百円を投入口に入れた。
諦められず、かれこれ十五回目の挑戦だ。
深呼吸をしてからウサギと睨み合い、クレーンを慎重に操作する。細かく位置の調整をしている俺を、中にいるウサギが冷めた目で見ている気がした。
まわりにいる他の客からも、『この人まだやってるよ』『そんなにこの人形がほ しいのかな』という目で見られている気がした。それでも諦めきれないのは、どうしても取らなきゃいけないからだ。
吉川が行った場所、食べたり飲んだりしたもの、見たもの、全部同じようにしてきたんだから、こいつも同じように取りたい。そうしないと気が済まない。
ウサギは頭がやたら重いから頭のほうにクレーンを寄せて、狙うのは……ここだ!
クレーンを下げるボタンを押し、ゆっくりと下に降りていくと、アームの右側が狙い通りヘアバンドの内側にスッと入った。
「よしっ」
アームがぬいぐるみの頭を挟んで持ち上げると、ヘアバンドがいい感じにストッパーになってくれた。
「いけ、いけ、そのまま、落ちるな、頑張れ」
ウサギを応援してどうするんだと思いつつも、ゆっくりと運ばれていくぬいぐるみを熱い眼差しで追った。そして最終地点まで辿り着きアームが開くと、ぬいぐるみが見事穴に落下。
「よっしゃ!」
不思議なことに、ガッツポーズをしてぬいぐるみを取り出す時にはもう、こいつがかわいくてしかたなくなっていた。
吉川がこいつをかわいいと思った気持ちが、今の俺にはよく分かる。
もし簡単に取れていたら、かわいいなんて思えなかっただろうな。となると、俺と同じように吉川も意地になってこいつを取った可能性がある。必死になったからこそ愛着が湧いて、『かわいい』と思えたんじゃないか?
だけどそうすると、吉川は結構頑固で負けず嫌いな一面があるということになるが。
《人形取ったぞ。あのさ、もしかして吉川って意外と頑固で負けず嫌い?》
証拠の写真と共に咲に送ると、すぐに返信がきた。
《うける。本当に取ってるし。てか、花は頑固なところもあるけど、私の言葉はいつも素直に聞き入れるし、反論されたことなんてほとんどないから。それに負けず嫌いっていうより、花はそもそも人と競い合うことが好きじゃないし》
「だよな……」
咲の言うことはもっともだ。俺もそう思う。素直で争いごとは嫌いで、どちらかというと人に譲るようなタイプ。そのほうがしっくりくる。
でもなんだろう、クレーンゲームで意地になってウサギと睨み合っている吉川を、俺は見てみたいと思った。そういう一面があったとしたら、むしろそのほうがいい。
なんて言ったら吉川は、『私はそんなことしないよ』と笑うだろうか。それとも……。
それでもひとりでショッピングセンターにやって来た俺は、四階のゲームコーナーの前に立ち、スマホを握った。目の前にはずらりとクレーンゲームが並んでいる。
勝手に俺のことを決めつけて勝手にブチ切れた のに、こっちから連絡するのは正直癪だけど、とりあえずひと言だけ送っておくか。
《これから挑戦する》
撮っておいた先ほどの日記の写真と共に、咲にメッセージを送った。
「よし……」
あれこれ考えたってしかたがない。そう割り切って、俺はクレーンゲームを見て回る。
やると決めたけど、吉川の言うかわいいウサギのぬいぐるみとは、どんなやつなのだろう。
ウサギといってピンとくるキャラクターはいるけど、それが正解だとは限らないし。それに、吉川がクレーンゲームをしてから七ヶ月ほど経っているんだから、さすがに中身も変わっているはずだ。
同じものはもうないと考えて間違いないので、とりあえずウサギのぬいぐるみがあればそれに挑戦しようと思った矢先、スマホが鳴った。
画面を見た瞬間「えっ……」と声が漏れたのは、咲からのメッセージだったからだ。
絶対に返ってこないだろうと思っていたので驚いたが、もう怒りは治まったということか。
そう思いながらメッセージを確認したが、出てきた写真を見て、俺はさらに目を丸くした。
「は? なんだこれ」
そこにあったのは、奇妙なぬいぐるみの写真だった。
《どうせどんなぬいぐるみか分かんないんでしょ。これが花の言うかわいいウサギのぬいぐるみだよ》
「マジかよ、これが……?」
大きく開けた口からギザギザの歯が見えていて、すごく目つきの悪いウサギだ。それなのに、フリルのついた白いヘアバンドをつけている。なんていうか……。
《今、これのどこがかわいいんだって思ったでしょ》
俺の心の中を読んだかのように、続けて咲からメッセージが届いた。
《別にそんなこと思ってない。独特だなとは思ったけど、かわいくないとかじゃないし》
《本当のこと言えばいいのに。別に花が聞いているわけでもないんだから》
そう言われると、なんだか寂しいじゃないか。天国で聞いているかもしれないから怒られるかもね、とか言われたほうがまだいい。咲がそんなことを言うとは思えないが。
《花はかわいいものが好きだったけど、これをかわいいって言った時はさすがに引いた》
そういえば、吉川のリュックに猫のキーホルダーがついていたけど、それは確かにどう見てもかわいい猫だったな。このウサギとは正反対というか……。
でも不思議なことに、もしここに吉川がいて『 かわいい』と言って笑ったら、多分俺にもこのぬいぐるみがかわいく見えるのだろうなと思う。吉川の魔法というやつだ。
《情報ありがとう。というか、この前はごめん。ひとまずぬいぐるみを探してみる》
この勢いでさらっと謝ると、なんだか少しスッキリした。よく考えたら喧嘩する必要なんてなかったし、咲がもういいと言うなら俺ひとりで続ければいいだけの話だ。どうなったかは、あとで報告しよう。
親子や若者が大勢いて賑わう中、一台ずつ確認をしながら歩いた。
人気アニメのキャラクターとかは定番で置いてあるだろうけど、基本クレーンゲームの中は入れ替えるものだから、期待はしていない。
多分ないだろうな……と思った矢先、そいつが俺の視界に入った。
「嘘だろ、いるじゃん」
台の前に立った俺は、中にいるそいつと写真を見比べた。
間違いない、吉川が取ったぬいぐるみだ。写真より、生で見たほうがずっと奇妙な顔をしている。
「よし、やるか」
わり とクレーンゲームは得意なほうだから、ぬいぐるみの形状も取りやすそうだし余裕だろう。そう思って挑んだのだが―― 。
硝子越しにいる目つきの悪いウサギが、『取れるもんなら取ってみろ』と言っているかのように、俺を見ている。舌打ちをした俺は、百円を投入口に入れた。
諦められず、かれこれ十五回目の挑戦だ。
深呼吸をしてからウサギと睨み合い、クレーンを慎重に操作する。細かく位置の調整をしている俺を、中にいるウサギが冷めた目で見ている気がした。
まわりにいる他の客からも、『この人まだやってるよ』『そんなにこの人形がほ しいのかな』という目で見られている気がした。それでも諦めきれないのは、どうしても取らなきゃいけないからだ。
吉川が行った場所、食べたり飲んだりしたもの、見たもの、全部同じようにしてきたんだから、こいつも同じように取りたい。そうしないと気が済まない。
ウサギは頭がやたら重いから頭のほうにクレーンを寄せて、狙うのは……ここだ!
クレーンを下げるボタンを押し、ゆっくりと下に降りていくと、アームの右側が狙い通りヘアバンドの内側にスッと入った。
「よしっ」
アームがぬいぐるみの頭を挟んで持ち上げると、ヘアバンドがいい感じにストッパーになってくれた。
「いけ、いけ、そのまま、落ちるな、頑張れ」
ウサギを応援してどうするんだと思いつつも、ゆっくりと運ばれていくぬいぐるみを熱い眼差しで追った。そして最終地点まで辿り着きアームが開くと、ぬいぐるみが見事穴に落下。
「よっしゃ!」
不思議なことに、ガッツポーズをしてぬいぐるみを取り出す時にはもう、こいつがかわいくてしかたなくなっていた。
吉川がこいつをかわいいと思った気持ちが、今の俺にはよく分かる。
もし簡単に取れていたら、かわいいなんて思えなかっただろうな。となると、俺と同じように吉川も意地になってこいつを取った可能性がある。必死になったからこそ愛着が湧いて、『かわいい』と思えたんじゃないか?
だけどそうすると、吉川は結構頑固で負けず嫌いな一面があるということになるが。
《人形取ったぞ。あのさ、もしかして吉川って意外と頑固で負けず嫌い?》
証拠の写真と共に咲に送ると、すぐに返信がきた。
《うける。本当に取ってるし。てか、花は頑固なところもあるけど、私の言葉はいつも素直に聞き入れるし、反論されたことなんてほとんどないから。それに負けず嫌いっていうより、花はそもそも人と競い合うことが好きじゃないし》
「だよな……」
咲の言うことはもっともだ。俺もそう思う。素直で争いごとは嫌いで、どちらかというと人に譲るようなタイプ。そのほうがしっくりくる。
でもなんだろう、クレーンゲームで意地になってウサギと睨み合っている吉川を、俺は見てみたいと思った。そういう一面があったとしたら、むしろそのほうがいい。
なんて言ったら吉川は、『私はそんなことしないよ』と笑うだろうか。それとも……。



