自宅に着いたのは午後二時を回った頃。玄関で靴を脱いだ時、お腹が鳴った。あれだけ大きなパンケーキを食べたのに、不思議なもので昼を過ぎるとちゃんと腹は減るらしい。

甘いものはやっぱり別腹なのかも、と思いながらキッチンで見つけた菓子パンを手に取り、自分の部屋に入った。

吉川の日記はいつも通り机の引き出しにしまい、着替えてから夏休みの課題を広げた 。夏休みは長いぶん、課題も多い。

まずは面倒な数学から片付けようと、シャーペンを持ってプリントを見つめた。が、どうにも落ち着かず、得意な計算問題もスムーズに解けない。

チラッと右横の引き出しを見た俺は、手を伸ばしてさっきしまったばかりの日記を取り出した。

集中できない原因は確実にこれだろうけど、今の俺には課題をやるよりも大事なことだ。

もう一度日記を開き、八月三十日の日記まで読み返した。

これまで読んだ吉川の日記の大半は、学校でのことが書かれている。学校ということは、同じクラスの俺も当然その場にいたのだろうけど、吉川の日記に今のところ俺の名前は出てきていない。

一番多いのがやっぱり咲の名前で、次が女友だちや家族、そして伊東の名前も二回出てきた。でも、俺の名前はない。だからこそ、なぜ俺にこの日記を送ってきたのかが、余計に分からなかった。
 
今のところ吉川の物語の脇役にもなれていないようだけど、どこかに俺は登場するのだろうか。

最後まで一気に読んでしまいたい衝動に駆られるが、吉川の日記を辿りながらページを捲ると決めている。それに最後まで読んでしまったら、吉川との繋がりがそこで終わってしまいそうで、怖いんだ。

八月三十日以降も、学校や家であったことを書いた日記が続き、次に吉川が出かけたのは十月二日。場所は喫茶店。

またしてもカフェかと思った途端、あの大きなパンケーキが頭に浮かんで若干の胃もたれを感じた。

でもどうやら、その心配はなさそうだ。気になる点はあるものの、十月二日の日記はいたってシンプルなものだった。

俺はスマホを手に取り、メッセージアプリを開く。

《夏期講習があるから午前中は無理だけど、五日の夕方とかどう? 大丈夫そうなら十六時に駅前で待ち合わせよう》

咲にメッセージを送ると、すぐに《了解》というスタンプが返ってきた。

もう一度引き出し に日記をしまった俺は、集中するように深呼吸をしてから、目の前のプリントに視線を落とした。