駅前のショッピングセンターに着くと、俺たちはエスカレーターで四階に上がった。吉川はここの五階にある映画館で映画を観て、買い物をしたらしい。

だが一年経っているので、吉川が観た映画はさすがにもう公開していない。だから、映画についてはそれぞれ配信で観ることにした。

「で、渉は観た?」

エスカレーターで昇りながら、咲が聞いてきた。

「昨日の夜見たよ」

「どうだった?」

「俺もアクション好きだし、めっちゃ面白かった。でも吉川がアクション好きなのは意外だったかな。あれは結構血が流れる系だし」

四階でエスカレーターを降りると、俺たちはあてもなくフラフラと歩き出した。平日とはいえ夏休みだからか、学生らしき若い客が多くて思ったよりも混雑している。

「花はああ見えてアクションとかバトルものが好きで、恋愛系はあんまり観ないんだ。その辺は私と似ているかもね。あ、でも漫画や小説は恋愛系も読んでたなー」

「そうなんだ」

離れていたとはいえやっぱり双子だから、咲は吉川のことをよく知っている。当然ながら、俺なんかよりもずっと。

そこからは、あまり会話がないままとりあえず色んなお店を見て回った。

俺は買い物に行ってもパッと済ませるタイプで、目的もなくダラダラ歩くことはあまりない。けれど、どうやらそれは咲も同じだったらしい。

時間が経つにつれて、明らかに咲の機嫌が悪くなっていった。眉間のしわと、時折聞こえるため息が怖い。

「今日はもうここまでにしようか」

咲の無言の圧に耐えかねた俺が、そう切り出した。

「そうだね。こうやってただ歩いてたって、なんの意味もないし」

確かにその通りだ。吉川がここで買い物をしていたのは確かだけど、どこをどう歩いてどの店に入ったのかまでは分からない。吉川の気持ちも感じたことも何もかも、今の俺たちに知る術はない。

「で、次はどうするか決めてるの?」

「えっと、ちょっと待って」

エスカレーター付近にあるソファに腰を下ろした俺は、カバンから取り出した日記をパラパラと捲る。

「次は、ここに行こうと思うんだけど」

俺がそのページを見せると、咲は「了解」と軽く返事をした。

姉が亡くなったばかりなのに、咲は悲しい顔をあまり見せない。少し複雑な表情を見せたのは、俺が死のうとした理由を尋ねた時くらいだろうか。

悲しいというより怒っているというか、咲は常に不機嫌そうな表情をしている。

いつも穏やかだった吉川とは全然違うけど、以前からずっとそうなのだろうか。もし吉川を亡くしたことが原因で笑えなくなったのだとしたら、その悲しみは計り知れない。

「じゃあ次の日時は予定を確認してから、また連絡する」

咲にそう伝え、俺たちはショッピングセンターを出たところで解散した。