君がいなくなるのを待っていたかのように、風の匂いが変わった。

心地よかったはずの爽やかな空気が湿り、朝から雨が降り続いている。

通夜には、学校関係者を含めて多くの人が参列した。

学生服を着ている参列者のほとんどが目に涙を浮かべていて、クラスメイトの中には泣き崩れてしまう女子もいた。

吉川は容態が急変し、そのまま帰らぬ人となったと、吉川の父親が説明していた。
 
ここにいる生徒たちは余命どころか、病気のことすら知らなかった。

みんなにとっては突然すぎる別れだけど、俺も同じようなものだ。余命は告げられていたけど、三ヶ月どころか一ヶ月も経っていないのだから。

俺は、たくさんの綺麗な花が置かれている祭壇の前に立った。見上げた先には、満面の笑みを浮かべている吉川の遺影がある。

いつも見ていたはずの笑顔なのに、まるで別人のように思えた。実感が湧かない。

だからなのか、会場のあちこちからすすり泣く声が聞こえるのに、俺は泣けなかった。

とてつもなく悲しいのに、涙が出ない。

現実は、小説のように天真爛漫なヒロインに振り回されながらも、最後まで彼女を支える……などという展開にはならなかった。

別れの言葉も言えず、想いを伝えることもできない 。ただ、心にぽっかりと穴が開いただけだ。

吉川は、願いごとをノートに書いたのだろうか。

書いていたとしても、叶えてやることができないという現実は、想像以上に残酷だった……。