頂点の上を見つめて



 「この作品ね、連続放火の犯人は誰かっていう王道なミステリー小説なんだけどね」


 「うん」


 お昼休みの図書室。いつも通りのカウンター係の仕事をしているとき。


 「トリックも好きだけど、なんてったって登場人物それぞれの心理描写がこの作品は光ってるんだよ!」


 夢中で熱語りする上館さん。ううん大空くん。


 図書室の中だからもう少し小さい声で話したほうがいいんじゃないかな、と思いながらも私は聞き入ってしまう。


 でもやっぱりいけなかったみたいで、図書室に入ってきた司書さんに二人して怒られる。


 「それでね、犯人もただ悪いやつなわけじゃなくて……て笑ってる?」


 声を小さくして話し始める上館さんに、ついくすり笑いをしてしまった。


 「もう、じゃあ次は秋乃ちゃんの番ね」


 大空くんは無理やりに私に感想を言わせようとする。笑っちゃったし仕方ない。


 「私はこの本が好きで」


 青空を背景に女の子が笑ってる表紙の小説を見せながら、思いつく限りの魅力を大空くんに伝えた。


 「いいね。内気な女の子が明るい男の子に影響されて前向きになっていく話」


 聞きながらにっこり笑顔を作る大空くん。まるでこの本の男の子みたいだな、なんて。


 「これで終わり。またやろうね」


 「うん」


 恥ずかしくなって強制的に終わらせてしまったけど大空くんは素直に頷いてくれた。すると、ちょうどチャイム鳴って。


 「わ、ベストタイミングだね」


 「チャイムが私たちの会話を待ってたのかな」


 「はは、いい表現。さすが未来の作家さん」


 「もう、やめてよ」


 ふいに顔が熱くなる。胸の中にある器官が異常に血を送り込んでるんじゃないかって思うほど。


 最近こんなことがよく起こって。


 「途中まで一緒に行こう?」


 「あ、うん」


 おすすめした本を力強く抱えながら、歩いていく。


 廊下に出ると、少しひんやりとした空気が肌を滑った。もうそんな季節なのに体は熱いなんてやっぱりおかしい。


 「それにしても、もう二学期始まって二か月経つんだね。ぼく、この間入学したばっかりに感じてるんだけど」


 「それは言いすぎだよ」


 そうやって二人して笑っていると、私のクラス番号が目の前まで迫っていて。


 「じゃあ、また」


 「うん。ばいばい」


 小さくなっていく大空くんに、どこからきているかわからない寂しさを感じてしまう。少しずつ終わっていく秋を見ているような、そんな気持ち。


 二か月。大空くんと感想を言い合うようになって一か月も経つ。そうだよね、もう下の名前で呼び合う仲になっていたのだから。だけどそれまでの関係。


 もうとっくに気づいている。彼への気持ちに。


 物語の中のヒロインみたいな勇気があれば、一歩進めるのかな、なんて思ったりして。