頂点の上を見つめて



 図書室に入ると、いつもとは違うカラフルな空間が私を迎えた。所々に先週書いたポップたちが本のそばで花のように咲いている。


 ふと疑問符が頭上に浮かぶ。こんなにポップを書いたっけ、と。


 私は図書室の窓際に並べられたお勧めの本のコーナーへと近づく。あれ? やっぱり違和感を感じる。


 読書週間とはいえ、お勧めとして置かれている本が多すぎる。委員長から聞いていた冊数よりもはるかに。


 そのコーナーの前に来た私はポップ一つ一つに目を通していく。すると見覚えのある文字が飾られているポップの大半を占めていることに気づくと。


 「あっ」


 その声に反射的に振り向けば、上館さんがいた。とても気まずい。先週のこと、そして今、彼の書いたポップを凝視していたこと。


 まともに目を合わせられなくて、棚に眠る本のほうへと視線をずらす。


 「ごめん。小向さんのこと、なにも知らないのに」


 「私も、昨日は言いすぎたよね」


 本当は私が一番悪いのに。最初に謝るべきなのは上館さんじゃなくて私。


 だけど彼は首を横に振って「僕はなにもわかっていなかった」と肩を落とす。


 「上館さんは悪くないよ。それに、本が好きなのは本当のことだから」


 本が好き。読むことも書くことも。理由が汚くても、その感情はちゃんとある。その思いが少しはあったから、きっと今まで書き続けられたんだと思う。


 だけど。


 「でもやっぱり、部活には入れない」


 はっきりと伝えると、彼は困ったように空を仰ぐ。


 「ポップ、いっぱい書いたんだね」


 気を落とした彼に少しでも明るさを取り戻してもらうために、そんな話題へと変える。だけどそれは逆に彼に明るさを与えすぎる結果を招いて。


 「うん、たくさん書いた! この小説は……」


 それから彼の演説が延々と続いていった。本当にずっと。お昼休みの終わりを告げるチャイムが響くまで。


 だけど不思議と長くは感じなくて。自分の知っている小説なら、私も感想を伝えて、何より楽しそうに話す彼を見つめることに飽きは来なかった。


 「教室戻らないとだね」


 本田さんともこんなに小説を語ったことはなかったかもしれない。でももう時間だから、教室へ戻ろうと……。


 「ちょっと待って、小向さん」


 私は足を止める。振り向くと、彼が俯いていた。何か大事なことを切り出すような。もしかして……。


 「部活には入らないからね」


 「まだ何も言ってないのに」


 「そんな予感がしたから」


 口を軽く尖らせた後、視線を泳がせながら「じゃあ、今みたいにさ」と呟く。それから一拍おいて。


 「本の話しない?」


 「本の話……」


 もしかしたら、これも遠回しで文芸部に勧誘する台詞かもしれない。でも。


 「いいよ」


 楽しかったから。本のこと、語れて。その瞬間、上館さんの口の両端が一気に上がった。誰が見ても満面の笑みを浮かべて。ってそれよりも。


 「早く行こう? もう授業始まっちゃう」


 「あっ、そうだね。呼び止めてごめんね」


 喜んでいたのも束の間、彼は慌てた様子を見せる。時間に遅れないように、私たちは早足で図書室を後にした。


 幽霊になったかのように、とても軽い足取りで。