頂点の上を見つめて




 「よ~し。書くぞ、いっぱい!」


 雨が降っているせいで夕陽が差してこない図書館。もちろん今日は月曜日。


 さーっと館内でも雨が地面に弾く音が響く。その音と上館さんが気合を入れて色紙に文字を連ねていく音が重なる。


 「この習慣が本を読むきっかけになってくれたらいいなぁ」


 そう呟きながらすらすらと同じ作業を続ける上館さん。


 「上館さんは、皆に小説を好きになってほしいの?」


 正直、趣味は人それぞれだから、私は無理に本をお勧めしようとは思わない。でも図書委員の仕事の一環だからやらざるを得ないのだけれど。


 暑さは残るけれど、今は秋。テレビでも芸術の秋とか食欲の秋なんかが囁かれている。


 それにちなんで、図書委員は来週に迫った読書週間の準備をしている。私たちが書いたポップで活字離れした今の高校生がわずかでもページをめくってくれるように。


 「そりゃあね。だって本が好きな人が増えたら、色んな人と本の感想を伝え合えるし、文芸部の部員不足解消にもなるし」


 「文芸部ってそんなに人少ないの?」


 なんか、申し訳ない。あれから数週間経つけど、当番のたびに話しかけられては、強引に文芸部へと勧誘してくる。


 もちろん丁重にお断りしているけれど。


 「小向さんが気を落とす必要なんてこれっぽちもないよ」


 「え、全然そんなこと思ってないよ」


 「でも、今ちょっと眉下げてた。ってことは少し申し訳なく思ってるのかなって」


 図星すぎてなにも言えない。だけどそう思ってるなら。


 「どうして私を部活に誘うのやめないの?」


 「だって、小向さんは本が大好きでしょ。わかるもん。だから諦めないよ」


 「上館さんは何もわかってない」


 「わかるよ。本が好きなんでしょ」


 「やっぱり何もわかってない。世の中好きなことだけやってたら生きていけないんだよ」


 「確かに大人だったらそうかもしれないけど、僕たちまだ高校生だよ? 一番好きなことに時間を使える年頃だと思うんだけどなぁ」


 「そうできない人もいるんだよ」


 私のように。少しでも生活費を稼いで毎日を過ごす。好きだとは言ったけれど、それは私の心の一部にすぎない。


 部活で毎日楽しく本を書いてる上館さんにわかるわけない。あの純粋な笑みと明るさがそれを物語っている。困り事なんて一つもない笑顔で。


 「そうだね……」


 小さく上館さんは呟く。さすがに言いすぎたかもしれない。でもいい。むしろもう、誘ってこなくなるのなら嬉しい。


 嬉しい、はずなのに。


 ふと夢中になって話していることに気づいて、私も彼と同じく本を紹介する文章を書いていく。


 色画用紙に文字を書いていく音が、雨のようにただずっと続いていった。