頂点の上を見つめて



 『神楽真澄』


 四角い電子機器から放たれる光の中で浮かぶその文字。私が参加している短編小説コンテストのある一つの応募作を書いた人の名前。そして毎回受賞する人の名前でもある。


 はぁ、とため息が漏れる。だってこの人がいるから……。ううん、それ以上考えちゃいけない。
 もっと前向きに。そう今度こそ、と祈っていると。


 「ただいま」


 光を灯すような温かな声に、重くなった身体が反射的に椅子から立ち上がった。


 「おかえり」


 玄関まで迎えると、誰が見ても心配してしまいそうな様相をしたお母さんが、自分の履いていた白いスニーカーを揃えていた。短い袖から伸びる細い腕と、お化粧で隠しきれていない目の下のクマが特に。


 「もうごはんはできてるの。今あっためるから、お母さんはゆっくりしてて」


 「全然先に食べてくれてていいのに。今何時かわかってるの?」


 テレビの横にぽつんと置かれたアナログの置時計に目をやると、針はもうすぐ明日を指そうとしていた。


 「こんな時間に食べるのってよくないことなんだよ」


 「お母さんも……」


 「お母さんは大丈夫。お医者さんにお世話になったのなんて数えるほどだし」


 そうは言うものの、今のお母さんの姿を見ていたら、とても信用できそうになかった。


 「明日から……もうすぐ今日だけど。とにかくもっと早くにごはん食べなさい」


 「嫌だ」


 子どもみたいな反抗をすると、お母さんは眉を八の字にさせた。このままだと本当に幼稚園児になってしまうから、私は言葉を続ける。


 「一人のごはんは美味しくないの。そんな料理食べてるほうが体に悪いよ」


 学校でも一人なのに、家の中でも一人なんて。
 一度同じクラスの女子に誘われたけれど、アルバイトだからって断ったらその次はなかった。


 仕事で夜遅くに帰ってくるお母さんとの食事を逃したら、私は本当の意味で孤独になってしまう。


 そんな私の心中を悟ったのか、「わかった」と優しく私を抱いてくれた。とっても温かい。