図書室特有の香りが入った瞬間に鼻孔をくすぐる。そのまままっすぐにカウンターへと歩いていく。
今日はカウンター当番だから。
私はいつもの場所に座って小説を書く。だけど隣には誰もいない。あの事件から二週間、その席が埋まることはなかった。
お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴るまで、物語を書こうと思ったけれど、それは便利な電子機器の震えによって阻まれる。
電源を入れて連絡アプリを開くと、一件新規のメッセージを見つけた。
そこに表示された文章に、私は呆然とした。まるで時間を止められたかのように。
『この度は受賞、おめでとうございます』
文面にはそう書かれていた。何度瞬きしても、それは変わらなかった。
学校の中なのに、私の視界は簡単に滲んでしまう。でも人がほとんどいない図書館だからいいのかもしれない。
中学生の頃の私がこの文面を見ても、きっと同じ反応をしていた。目に涙を浮かべて。
だけど、理由が違う。あの頃の私の涙はきっと嬉しさに溢れていたに違いない。受賞することが目標で頑張ってきて、そしてそれを達成して喜んでいる、嬉し泣き。
だけど今は違う。全然、嬉しくない……。
私は今さら気がついてしまった。本当に今さら。
もう、遅すぎるのに。彼がこの世を去って初めて気づいてしまったのだから。大切なことに。
受賞よりも、賞金よりも。
何よりも私が願っていたことは、彼が、大空くんが隣にいてくれることだった。
好きだったのに。大好きだったのに。本のことを話して、笑って、そんな日々が。
だけどもう、戻れない。決して。
私は立ち上がって、窓際の前まで足を運ぶ。閉ざされた窓をゆっくりと開けて、空を仰ぐ。
空は灰色だった。
私は左手を伸ばす。その上に丸くて白いものが落ちてきた。だけどそれはすぐに形を変え、消えてしまう。
雪だった。そっか、もう。本当に秋は終わってしまったんだね。彼とのひと秋の恋も。
私は大空を見上げた。
ずっとずっと、一生かかっても届かない上を。
頂点の上を見つめて。
〈終わり〉



