頂点の上を見つめて




 遂に辿り着いた。新刊コーナーに。自分の書いた物語が置かれている場所に。


 この日は別の新刊の発売もあるのか、そこには多くの人だかりができている。


 路上ライブを見るかのように、遠くから僕の作品を眺める人もいれば、動物園で小さな動物に触れ合うように、その小説を手に取る人もいた。


 誰かの手に自分の作品が届く今、この瞬間が愛おしく思える。そして僕の視線はある一人の女の子で止まった。


 僕の作品を手に取って、さらにページをめくる彼女に。天井にある蛍光灯が、肩より少し長く伸びた彼女の細い髪に天使の輪を作る。


 周囲の目を気にせず、ひたすらにページをめくり続ける彼女。そのたびに頬が緩んだり、目に水が溜まったり。自分の書いた作品で、こんなにも忙しなく感情を動かしてくれていることがすごく嬉しかった。


 放せない。視線が楽しそうに読む彼女から。もう十分は経っているはずなのに、僕はずっと彼女のことを見つめていた。


 それ以来、物語の中のヒロインを描くたびに、彼女のことを想起するようになった。だから。


 『よろしくね』


 身支度を整えているその子に、僕は声をかけたんだ。一生分の勇気をかき集めて。なのに全然気づいてもらえなくて。


 『小向さん?』


 もう一度、今度は苗字をつけたら振り向いてくれた。その顔が目に映った途端、胸の奥が熱くなって。


 『あ、えっと。同じ曜日のカウンター担当の……上館さん』


 驚いた表情を見せながら、でもちゃんと言葉を返してくれたことが嬉しくて。


 『うん。これからよろしくね』


 それから無理やりにも小向さん、ううん。秋乃ちゃんと会う口実を作っていった。もちろん文芸部へのお誘いもその一つ。もっと話したくて、もっと知りたかったから。秋乃ちゃんこと。


 でも僕はまた間違えてしまった。秋乃ちゃんのこと、まだなにも知らないのに。お金に困っていることも、僕のせいで受賞できないことも。