今日は風が手加減をしてくれているからか、白いカーテンが大人しかった。
「お兄ちゃん、その大きな紙なに?」
病室に来て間もなく、妹は指をさしてそれに気づいた。僕の二週間の集大成に。
上半身を起こして、興味津々といった目で覗いてくる。
「これ、僕が書いた物語なんだ」
僕は意を決してそう口にする。
「えっ、これお兄ちゃん書いたのなの?」
叫んだような大声に僕は肩を震わす。妹のことを直視できないままコクリと頷く。
もしかしたら拒絶の色が含まれた瞳をしているかもしれない。あんなに本を嫌っていたのだから。そう思うと、目を合わすのが怖かった。
「無理にとは言わないよ。気が向いたらでいいからね。ここの引き出しに入れておくよ」
否定も肯定もしない微妙な反応。そんな反応を見るのが怖くなって、僕はなにも考えず手に抱いているものを引き出しへ入れに行く。
ベッドの隣に備え付けられたコンパクトなタンス。その上にはテレビも置かれている。
そこの引き出しの中に原稿用紙を入れていく。落として散らばらないように。
片付け終えて、また彼女の顔を見ると小さな口を動かしているのが見えた。
「お兄ちゃんが書いたの読みたい」
引き出しの方を指さす彼女。その瞬間、喜びで心が溢れ返る心地がした。
「ほんと!」
僕の望んでいたことが叶ったから。また物語と向き合ってくれる。
自分ではわからないけど、きっと嬉しい表情をしていると思う。
引き出しを開けて、それを取り出そうとすると「待って」という声が僕の手を止めた。
「どうしたの?」
もしかしたら思いとどまったのかもしれない。この間まであんなに本を嫌っていたのだから。
だけど顔を上げれば、妹は微笑んでそれは退屈な時間に読むよ、と声にした。
僕は胸を撫で下ろす。
それから病室が暗くまで、僕たちはたくさんおしゃべりをした。
この空間から静けさが消滅するくらいに。



