頂点の上を見つめて



 自室の扉を開けると、ひんやりとした空気が出迎えてくれた。足のつま先から頭の頂点まで。


 お風呂上がりで火照った体にはちょうどよかった。


 その空気を吹き込ませている窓の隙間の向こう側を覗いてみる。ドラマの世界みたいに星空が広がっていたらよかったのに、あいにく空は綿埃のような灰色の雲に覆われていた。


 きっと妹の心の空もこんな模様なのだと思う。病気の完治という希望の光が見えなくて、不安でいっぱいに違いない。


 「作家のメッセージは綺麗事……」


 ポツリと小さく呟いてみる。よくよく考えてみたら、確かにそうかもしれない。


 いいことをしていたって悪いことは起こるし、悪いことをしても幸福な人生を送っている人もいる。


 真面目で、手のかからない妹は前者。いいことをしたら幸せになれるなんて綺麗な状況に妹は置かれていない。


 灰色の雲に、妹と本を読んだ記憶を映してみる。忙しなく黒目を動かして、ページをめくる彼女を。


 あるページでは笑みを零し、あるページでは目に溜まった雫を零す彼女を。


 そんな彼女が読書を手放すのはもったいない気がした。文字を楽しそうに追っていた、あの時間を。


 雲のスクリーンは僕に一つの目標を探し当ててくれた。


 もう一度、あの時間を取り戻すために。星空が見えるように。僕は……。


 小説を書きたい。