自室の扉を開けると、ひんやりとした空気が出迎えてくれた。足のつま先から頭の頂点まで。
お風呂上がりで火照った体にはちょうどよかった。
その空気を吹き込ませている窓の隙間の向こう側を覗いてみる。ドラマの世界みたいに星空が広がっていて、少し驚いた。この地域は曇りが多いから。
窓をもう少し開けて、今日買った冊子に書いてある文字を追う。月明りを電気にして。
何度もページをめくっていくと、まるで障害物に引っかかったように滑らせていた目が止まる。
『上館大空』と記された文字で。
大空くんはどんな物語を書いているのだろう。一旦冊子から目を離して、星空を眺める。
小さな光の粒に、昼間の大空くんの妹さんを思い浮かべてみた。目を瞑りながら大空くんの小説を語る彼女。
妹さんはあの時、もう一度小説を好きになったと言っていた。
きっと小説を嫌いになるネガティブな出来事があったんだと思う。
だけどそんな出来事をも乗り越えさせた物語を大空くんは書いた。私を励ましてくれたときのような言葉を繋いで。
再びページに視線を送り私は大空くんの物語と向き合う。ふと違和感を感じた。指を結末へと向かわせるたびに。
誤字脱字があるとかそういうのじゃない。だけど確かに違和感はある。
それは最後の一文を読み終えた時にも残っていた。何度も読み返して、その違和感は確信に変わる。
四角い電子機器をタップして、私はある人の作品と大空くんの作品を照らし合わせた。そして気づいてしまう。
今画面上に映る登場人物が、彼の物語にも登場していたこと。つまり同じ世界線で描かれている。文体も書き方の癖もそっくりそのまま。
この事実が表すことはたった一つ。
神楽真澄が上館大空だということ。



