頂点の上を見つめて



 見慣れたはずの学校の廊下が、今日は全然違う場所のように見える。変わった衣装でお客を接待する生徒や恋人同士で溢れているからだと思う。


 「お化け屋敷やってますよ~」


 その声につられて、明らかに怖そうな雰囲気を醸し出している教室内へと入っていくカップルたち。


 「次どこに行く~?」


 廊下で楽しそうに会話を広げる女子生徒の集団。それらのどの集団にも私は属していない。クラスの出し物は終わったし、一緒にお店を回る人もいない。恋人どころか友だちも。


 どこを行くでもなく歩き続ける。だけどお店に入るわけでもないのに接待の生徒に声をかけられる。


 流石に煩わしく思い始め、そんな考えを汲み取ったのか、自分の足は勝手に人の少ない場所へと歩を進めていた。


 階段を四階まで上り、廊下へ出れば私の望み通り、空き教室だらけのフロア。生徒は数えられるほどしかいない。


 だけど、どの生徒を見ても皆、色違いの同じものを抱えていて……。


 「秋乃ちゃん?」


 ガラガラと戸を引く音とともに聞こえてきた声に後ろを振り返る。自分の名前を呼ぶ人なんて早々いないし、なにより何度も聞いている気になる人の声だったから。


 振り返った私は、その声の主と目が合った。


 大空くんがさっきの生徒たちも持っていたものを抱えながら、ちょうど図書室から出てきたのだ。


 「もしかして来てくれたの?」


 「いや、偶々かな……」


 文芸部がお店を出していたこと自体今の今まで知らなかったのだから。


 「よかったら寄って行く? あっ、誰かとお店回る予定だった?」


 私は首を横に振る。自分に友だちがいないことを改めて自覚させるみたいで嫌だったけど。


 「そっかぁ、よかった!」


 そんな屈託のない笑顔を見ると、自分が一人ぼっちなんだという気持ちはどこか遠くへと飛んでいく。


 だけど同時にチクチクと胸が痛む。その笑顔が自分だけのものではないことに。


 「ほら、早く」


 再び戸を引いて図書室に入った大空くんはこちらを振り向いて四本の指を上下に振る。まるで素敵な世界へと招くように。


 大空くんには彼女がいる。見かけない女性だったから、きっとこの学校の生徒じゃないと思う。


 だとしたら、今日その人と鉢合わせする可能性は大いにある。なのにどうしてか図書室は近づいていく。足が自然と動くのだ。


 ううん、足じゃない。私の心が彼へと近づこうとしているんだ。