頂点の上を見つめて



 自室がカチカチという音で満たされる。それは窓の外で降り注ぐ秋雨の音と同化していた。


 光る画面には次々と文字が生まれてゆく。


 今まで何作も書いてきたけれど、こんな感覚は初めてだった。勢いだけで書いているような。


 行き詰まる要素がまるでない。題材を失恋にしようと、あの瞬間思ったときから。


 これなら、あの神楽真澄さんにだって勝てるかもしれない。そう自惚れてしまうくらい、順調に執筆は進んでいた。


 あれから、彼のことは避けるようになった。といってももともと毎日会う間柄ではなかったけれど。


 それでも毎週月曜日は来るもので。


 「ねぇ、なんか今日ちょっと冷たくない?」


 やっぱり突っ込まれた。でもあえて誤魔化す。


 「確かに今日は冷えるよね」


 「そうじゃなくて」


 うん、そうじゃない。大空くんの言うとおり。でもそうじゃなければ……までは言えない。


 「今おすすめしてる本、つまんなそうだった?」


 「ううん」


 「じゃあどう……」


 「すみません、この本借りたいんですけど」


 珍しくカウンターに生徒がやって来ていた。これでやっと仕事した数が両手全部の指を上げられるくらいになったと思う。グッドタイミング。


 「バーコードがついているところを上にしてください」


 ぴっと音がしたら、その本は借りられたことになり、ありがとうございましたと挨拶をする。その生徒は入り口付近にいる女子生徒と合流して図書館を出てゆく。文化祭私たちどんな出し物する? なんて囁きながら。


 そっか、もうすぐ。


 「秋乃ちゃん、文化祭一緒に回らない?」


 「え?」


 意味がわからないまま「午前中は忙しいんだけど、午後からは開いてて」なんて続けてくる。なに、どういうつもりなの?


 「ごめん、行けない」


 「どうして? やっぱり怒ってるの?」


 「怒ってないよ」


 ううん、怒ってる。どうしてじゃないよ。先週一緒に歩いてた女の子を誘えばいいじゃない。私じゃなくて……。


 予鈴のチャイムが鳴り響く。どうやらタイミングは、私に味方してくれるよう。


 「待ってよ」


 待たない。背中を叩く声を無視して、私は図書館の戸に手をかけた。