頂点の上を見つめて




 早速、病院近くにあった大型書店へと足を運んだ。今どき珍しく木造建てで、外観は古民家のように見える。


 中へ入ると、やっぱり木目の目立つ内装で、天井に備え付けられた古い火災報知器が、より空間を過去へとさかのぼらせているようだった。


 棚の大きさと陳列された本の冊数に毎回圧倒される。 たくさん並べられている本の中にあの名前を見つける。


 『神楽真澄』


 手を伸ばして取ろうとするも、我に返って引っ込める。いつからだろう。この名前を憎いと思い始めたのは。


 前はそんなことなかったのに。この本棚でその名前を見つけたら素直に手に取って読んでいた。


 涙だって流していたかもしれない。もしかしたら私が本を好きになったのも……なんて、まさか。


 過去の自分が映る雲を払うように、違う棚へと移動した。


 『小説の書き方』


 あった。これが私の目的。


 ぱらぱらとその本のページをめくってゆく。そこには小説の書き方の基本がずらりと詳細に書かれていた。


 迷うことなくそれをレジへ持って行く。


 なんとしても次は受賞したい。そう思って。


 会計を終えて建物の出口へ向かおうとした、そのときだった。


 「大空くん」


 出口近くの本棚で姿を見つけてそう呼ぼうとしたけれど、「お」しか口にできなかった。意図的に身体が声を出すことをやめたから。大空くんの隣にいる存在によって。


 藍色の膝よりわずかに下まで伸びるワンピースに白い薄手の羽織りを身に纏った女の子。書店全体を照らす蛍光灯が、彼女の長い髪に天使の輪を作っている。


 そのとき、大空くんがこちらを振り向こうとしたから、私は慌てて近くにあった本棚の陰に身を潜めた。

 
 その本棚は不運にも神楽真澄の本が並べられていた。美しい恋を思わせるタイトル。それは水に染みて滲んで見えた。
 思えばそうだよね。彼は部活だってしている。彼が恋愛をしている可能性なんていくらでも考えられるのに。


 大空くんに彼女がいないと、勝手に決めつけて。


 どうしてこんなときに。もう遅すぎる。少しの気持ちすらも伝えられずに終わってしまった。


 彼らは違うほうへ移動し、その隙に建物を出た。


 葉が色づき、落ちてゆく月の始め。アスファルトに広がる葉はほとんど暖色系だけれど、時々黄緑色の葉も混じっていた。


 色を変える前に散ってしまった葉っぱの気持ちが、ちょっぴりわかった気がする。