頂点の上を見つめて



 悪いことは立て続けに起こるとよく聞くけれど本当だった。


 誰もいないアパートの一室の扉に鍵を通したとき、妙な違和感を感じる。


 なんと鍵が開いていたのだ。バイトの終わりとはいえ、お母さんが帰るにはまだ早い時間帯のはず。


 その瞬間、心臓が凍り付くのを感じた。私は扉に耳をそばだてる。


 だけどどうしてか、中からは何も音は聞こえてこなかった。絶対誰かいるはずなのに。


 今度は少し扉を開けてみることにした。ほんのわずかな隙間から掴める手がかりを求めて。


 ふぅー。


 肩を使って深呼吸をする。どうか、怖い不審者じゃありませんように。


 恐る恐る、きしむ音を極力出さないように扉を引く。そして隙間から見えたのは……。


 「なんだ、お母さんのかぁ」


 玄関には乱雑に置かれた白いスニーカーがあった。


 私は胸を撫で下ろす。だけど突如疑問符が頭上に浮かぶ。


 いつもは夜遅くまで働いているお母さん。そんなお母さんが今ここにいる理由……。


 さっきとは打って変わって扉を勢いよく引く。まるでブラックホールのように私は家の中へと吸い寄せられる。


 そして洗面所の近くで、私の足はピタッと止まった。ここが目的地だというように。


 思わず口元を押さえる。


 そこにはお母さんがいた。だけど、その状態がいつものお母さんとはかけ離れていて……。


 「お母さん!」


 お母さんの傍で膝をつき、肩を軽く揺らす。だけど、何度繰り返しても反応はない。
 だんだん視界がぼやけていく。目に溜まった涙によって。


 耳をそっとお母さんの胸に当ててみる。それから少しの間だけそうしていた。


 生きている。心臓が一定の間隔で脈打つ、生きている人間の最大の特徴。


 それから私は四角い電子機器を取り出す。


 お母さんを助けてくれる人たちへと繋ぐために。