夏香と付き合ったけれど、本当に付き合ったんだよね、私たちって思うくらい何もない。
手も繋いでこないし、ハグもしてこない、っていうか一緒に帰ってもいない。
「いや、まあ、そうだよな、まだ早いよな、一歩ずつ」と、一人で行っていて、そのあと将来は「オペラグラス似合う大人になりたいわ」なんて話してた。
意味わかんない。
結花には「そうしたんですね」って言われて、晴人くんには何も言ってない。何も言わないのがいいと思う。
教室で今日も、私たちは幼馴染だといじられる。
それなのに、何も怖くない、むしろ可愛く見えてくる。
それだけの安心がある。
でも、どうして、付き合ってるみたいなことしてないのに。
ちょっとは、してもいいかなとか私は思ってるのにな。
夏香はそうじゃないのかな。
頭の中で夏香への話に変換される。
気がつくと夏香のことばかり考えている。
けど、前からそうだった。
急に名前が変わっただけで、急いで何かしないといけないってわけでもない。
もうちょっと待ってみるか、いや、私から手繋いでみるか。
いやいやいや、恥ずかしすぎる。想像しただけで胸の奥が締め殺される。
「希咲さん、ちょっといいですか? 」
眩しい目、だけどもう目を見て話せる。
私には花も彩る、夏の香りがあるから。
「なに? 結花」
「あ、名前」
「結花って呼んでって言ったよね」
涼しげででも何処か熱を帯びた、夏の香りは私をどこまでも強気にさせる。
「なんか、希咲さん変わりましたね。別人みたいです」
「へへ、そうでしょ」
「そうですか、そうなんですね」
きっと結花にも香ったのだろう、私のまとった夏の香りが。
やっぱり、なんでもわかられちゃうな。
「それはそうと、というか近い話ではあるんですけど、私実行委員の後輩に告白されちゃって」
「え?!  」
「しっ、声が大きいですよ。そう言うのがすぐクラスの餌食になるんですから」
「ごめんごめん」
「それでどうお断りしようか考えてて」
「そうなんだ」
「お断りしようと思っているんですけど、うまく言葉がまとまらなくて、というかその人のことがはるより気になってしまって、今も心配で心配で」
「ははっ」
私は笑った。結花も自分を見失うことがあるのだ。もうちょっと結花のことが好きになれそうだ。
「どうして笑うんです? 私は真面目にお話ししてますのに」
「それ、恋だよ」
私は元親友に言われた言葉を、親友になれると言ってくれた子にかける。
「え!?  」
一瞬で結花の顔が赤くなる。
「ふふ、かわいい」
私はいつかのお返しみたいに結花を覗き込んだ。
私、恋のこと大嫌いだったのに、夏香のこと、どんどん、いやそんなことはどうでもいいか。
今日はバスケでパス意識しよう。
先輩みたいに後輩の肩を叩こう。

結んだ花も咲くらしい、私は夏の香りをめっいっぱい吸い込んだ。